私は、イギリスへ行く以前は成田空港でグランドスタッフとして働いていました。学生のころから憧れていた航空業界へ就職し(その憧れは想像していた世界と違いましたが)、日本人はもちろん、外国人、お子様からご年配の方、たまに有名人など、いろんなお客様と接していました。思わず笑ってしまいそうになったり、心の中で怒りが込み上げてきたり。グランドスタッフで得た経験は、きっと他ではできなかったことでしょう。
入社して約1年半経ったころ、ふと「私はこの先どういう生き方をしていくのかな?」と思うようになりました。そして上司が流暢な英語で外国人クルーとお喋りしているのを見たり、学生時代の友人が同じ職種の別の会社に就職し、いろんな業務を任されていることを知ったりするうちに、「英語力を挙げれば、もっとできることが増えるかな」と思いました。漠然と「留学したいな…」なんて思いはじめたときにはもう、私は留学の情報を集めていました。留学斡旋会社のオフィスを訪れ、自分の想いをカウンセラーに話し、ついには思い切って行ってしまおう!と決めました。
何はともあれ、目標が決まってしまえば準備をするだけです。やはり一番苦労したのは資金集めでした。資金が貯まって会社を退職したのは、ちょうど留学を決意した1年後のこと。仕事最終日は、「もう少しこの会社で働いてもいいかな」と思うほど人に恵まれていましたが、その分海外で多くのことを学ぼうと決めました。
退職後、送別会を開いてもらったり、荷物を揃えたりと着々と準備を進めていました。しかし、突然ビザが取れなかったという連絡がありました。(後で知ったことですが、イギリスはビザのルールが本当によく変わるそうです。)出発予定日1ヶ月前になって突然行けなくなるなんて考えてもいなかったので、とてもショックでした。それでも渡航は延期するしかないので、ビザの再申請の準備と空いた時間を利用して派遣社員としてメーカーのテレフォンオペレーターの仕事をしました。これまで航空業界しか知らなかったので、違う職種を経験できたのもある意味良かったのかもしれません。何事も経験ですね。
そして、予定より3ヶ月遅れでしたが、ついにイギリスへ行けることになりました。当日の飛行機の中で見送りに来てくれた友達からの手紙を読むまで、日本を離れるという実感が全くなかったまま、私の留学生活は始まりました。
留学初期はとにかく精神的に疲れていたのか1日8時間くらいよく寝ていました! なんといっても授業に出席するのが憂鬱。授業内容は悪くないし、英語も苦手科目じゃなかったのにもかかわらず、外国人のクラスメイトの英語がまったく聞き取れない……。日本でネイティブのきれいな発音の英語教材に慣れていたため、英語を喋っているのか母国語を喋っているのかわかりませんでした。(ある程度の上のレベルになると、ホントよく喋るので……。)
私が語学学校に通い始めた時期はヨーロッパ人の学生が多く、クラスに日本人はいませんでした。授業ではペアやグループワークのようなものが多いし、ヨーロピアンは主張が強く、聞き役にならないタイプが多いので、自分から彼らの会話に頑張って入っていかないと、その場にいないのと同然! 当然ストレスがたまりました。後から考えれば、この経験が「自分はもっと周囲に気を配れる人でいよう」と、反面教師になってくれました。
そんな私の味方はホストファミリーと日本人の友達だけでした。私のホストファミリーはお母さんと私と同い年の娘さん。インド系移民のお母さん(もちろん完璧な英語で生活しています)は料理が得意で、イギリスなのにスパイシーな美味しい夕飯を作ってくれました。娘さんは英語、フランス語、スペイン語が喋れるトリリンガル。メキシコに1年間留学の経験があり、私のよき理解者でした。学校から帰ってきて、私がヨーロッパ人の生徒のように思うように話せないと落ち込んでいると「ヨーロピアンの言語は英語に近いけれど、日本語は英語と全然違うから気にしなくて平気よ!」って励ましてくれました。すごく留学生の気持ちを理解してくれる家庭でした。お母さんによると、娘さんの留学経験があったから、次は自分の家で留学生を受け入れようと思い、留学生を受け入れ始めたそうです。置き手紙を残すとそれを取っておいて後で自然な言い回しに直してくれ、「新聞に今日はどんな記事が載っていたの?」と私の英語をレベルアップさせようと協力してくれました。最近は、「ホームステイ=ビジネス」という家庭も多いと聞いていたので、こんな良いファミリーと一緒で心強かったです。ホームステイを延長したいくらいでしたが、ファミリーが旅行に行くそうでそれは叶いませんでした。
ホストファミリーの助けもあり、なんとか自分のペースで生活し留学して約1ヶ月後に始めてのレベルチェックテストがありました。結果は、微妙…。でも、まだ始まったばかり。地道にこつこつ頑張ろうと思い、先生にも宿題とは別にライティングの課題を出してもらい添削してもらいました。すると、次第に自分のうっかり間違えてしまう癖とかがわかってきました。それから約1ヶ月後に再度レベルチチェックテスト。しかし、結果はあまり変わっておらず、がっかり。あんなにライティングの課題を出してもらったのに…。下のクラスから上がってきた子の点数のほうが良かったことも悔しかったです。(他人と比べる必要は全然ないのですが)
考えてみれば、これまで授業以外で英語を使った時間は、宿題やライティングの課題、休み時間にクラスメイトやフラットでイギリス人の大家さんとおしゃべりするくらい。英語の勉強もあまり授業で習ったことを使ったり、復習したりしていなかったことに気がつきました。何よりも今まで、日本人と一緒にいた時間が長かった。みんな良い子たちだけれど、外国人の生徒とはあまり関わろうとしない。それではいけないと、クラスの子と飲みに行ったりもしましたが、今度は周囲のペースに少しストレスを感じるなど、ちょっとした葛藤がありました。ちょうどそのころ、クリスマスと年末年始の休みに入るところだったので、新年をきっかけに授業の時間を午後から午前に変えることにしました。ちょっとしたことですが、これが違う先生や違う生徒と関わってみるきっかけになるのではないかと考えたからです。
海外に来て3ヶ月。12月に3週間の休みがあり、ギリシャ・トルコを旅行しました。航空券、夜行バス、ホテルなどを自分たちで手配しました。ハプニングもありましたが、なかなか楽しい旅でした。トルコのカッパドキアへ行ったときは、現地のツアーに参加。韓国人、マレーシア人、オーストラリア人などいろんな人と一緒でしたが、みんな初対面でもフレンドリーで話しかけてきてくれました。
年明けからは、新しいクラスです。このときのクラスには恵まれました。授業中に、自分たちの母国語を喋ってしまうという生徒もいなかったし(本来それが当然ですが)、先生も生徒が飽きないようにやり方を変えてくれているのがわかりました。授業は楽しかったし、これまでとは違い自分でもちゃんと勉強したことを復習することにしました。勉強も家だとリラックスしてしまい、はかどらないので授業のあとは自習室を使っていました。外国人の友人と一緒に過ごし、話をする機会を出来るだけ増やし、気がつくと外国人の生徒と話をしてもストレスを感じていませんでした。
当初私の留学計画は、語学学校とインターンシップで語学力を伸ばすというものでした。しかし、年明けに突然学校から「ビザのルールが変わり、EU圏以外の生徒はインターンシップが出来なくなってしまった」と聞かされました。インターンシッププログラムがあったのでこの学校を選んだといっても過言じゃなかったので、本当に落ち込みました。だからといって「イギリスに来るべきではなかった」とは思わない自分がいただけ、良かったとは思います。だって、ここに来ないと出会えていなかった人がたくさんいましたから。
くよくよしている時間がもったいないと思ったせいか、すぐに何か別にできることはないか考え、情報を集めました。まず思いついたのは、試験を受けてみることでした。先生に相談したところ、ケンブリッジ英検を勧められました。試験科目は「読み・書き・話す・聞く」すべて。対策授業は今までよりも内容も濃く、宿題も増えるため、受験後には英語力がアップするし、就職の際もFCE以上持っていれば英語力の証明になるとアドバイスを受け、受験を決めました。
一方で、私は勉強だけでなく、実際に働く現場で英語力をつけたいとも考えていました。そのころ偶然にも「某航空会社のキャビンクルー研修コース」をウェブサイトで見つけました。興味はありましたが、実際にはわずか4日間だし、インターンシップではないし、費用もかかるなあ…と迷いました。とりあえず説明会だけ行ってみましたが、話を聞くほど参加したくなりました。なぜなら、この会社が私の好きなエアラインのひとつであり、そして実際に現役の社員に会え、本社を訪れることができるから。せっかくロンドンにいるのだし、この会社と関われるチャンスだしやってみようと参加を決意しました。また、他のウェブサイトで見つけた現地の日本の浮世絵専門店でインターン生を募集していることを知り、働くことにしました。日本のお店だから、日本人がいるけれども、イギリス人のマネージャーやフランス人イタリア人なども働いていましたので、仕事中は英語です。うっかり日本人に日本語使っちゃうと「英語で話して!」って言われました。また、お客さんはほぼ全員現地のイギリス人。積極的に話しかけてみました。海外に来なければ、このギャラリーで働かなければ、日本の文化もなかなかおもしろい、なんてきっと思わなかったことでしょう。
こうして、自分なりにできることはないか、すぐに行動に移したのが良かったと思います。何かやるべきことや目標、楽しみができると一気にモチベーションが上がりました。キャビンクルーの体験コースも参加してよかったです。4日間だったけれども、実際に会社を訪れることで社内の雰囲気を感じ取ることが出来ました。一番の企業研究になりました。研修内容からは、この会社がサービスはもちろん保安・救急に力を入れているということ、彼らのプロ意識の高さを理解し、やはりチャンスがあればこの会社で働きたいと思いました。
研修終了後すぐに日本人キャビンクルーの募集が出たので、すぐに私の担任の先生に、本気で書類通過したいからCVとカバーレターを添削して欲しいとお願いしました。ケンブリッジ英検受験日も迫りながらも、毎日書類の書き直しです。担任の先生以外にもいろんな人に私の書類を見てもらいました。しかしながら、結果は書類通過ならず。あとで読み返してみれば、私は落ちて当然のカバーレターを出してしまったと思いました。添削してもらえばもらうほど私の書類の英語は完璧になりましたし、いくら添削してもらっても内容は私が伝えたかったことであったのは事実です。しかしながら職種を考えてみれば、わざわざ日本人を採用するくらいなのだから、重視するのは英語力だけではありません。もっと自分のパーソナリティが表れるようなカバーレターを書くべきでした。残念だったけれども挑戦してよかったし、次につながります。この就活で大事なことを教えてもらった気がします。
それから、大事なことをもうひとつ。英語力とコミュニケーション能力について。ケンブリッジ英語検定の本番前に授業でスピーキングテストをやりました。生徒2人と面接官、採点者の形式です。先生たちが実際に面接官役になり採点してくれ、翌日フィードバックしてくれました。そのとき先生は私が思っていたよりも良い点数をくれました。なぜか訊くと、「語彙や文法もそうだけれど、あなたは話すときに自信を持って喋るし、会話をしているときの表情やボディランゲージなども総合して出した点数よ」と言ってくれました。これを訊いて、私が授業中に心がけていたことは間違ってなかったと気づきました。それは、「聴き方」と「話し方」です。
クラスメイトを見ていると、授業中に他の生徒が話していることを聴いていない、英単語の意味を説明するときに辞書をただ読むだけという生徒がいます。でも、人の話を聴けないからといって、聴こうとしないのは話している人に失礼ではないでしょうか。すでに英語がネイティブスピーカー以外の人々も使う言語になりつつあるのだから、ネイティブ以外の人の英語がわかるということも大事だと思い、私は周囲の生徒の英語を聴き、相槌を打つなり聞き返すなりで、「話を聴いているサイン」は出していたと思います。また、ネイティブでない私が英語を話すときは、相手にとってわかりやすく説明することが大事です。自分の持っているボキャブラリーを使い、例を挙げて説明したり、ゆっくり話すことを心がけ、相手が理解しているか感じながら話しました。これまで、正確に喋らなければとか文法がとか、そういうことにこだわっていたけれども、これからはもっと肩の力を抜いて英語が話せそうです。コミュニケーションは語学力だけではなく、発信力と傾聴力も大事ですね。
ケンブリッジ英検に合格したころには、私は上級クラスにいました。何が効果的だったのかはわからないけれど、これまでの経験すべてを通しての成果だと思います。ただ、語学習得に終わりはないです。英語の勉強はこの先もずっと続けます。
語学学校が修了してからは、少しロンドンに滞在することも考えました。でも、学生時代から中の良い友人がロンドンに来て、彼女の話を聞いているうちに(彼女も航空業界で働いています)自分もまたエアラインで働きたい、そろそろ日本に帰って就活しようという気持ちになり帰国日を早めました。
わずか9ヶ月の留学でしたがとても有意義でした。素敵な人々にもたくさん出会えました。特にロンドンで出会った日本人はユニークな方ばかり。高校を辞めて渡英したバレリーナや、白血病の治療ことを研究しているという大学院生、語学学校でレセプションとして働きながら女優業を続けている人などなど。活動の場は違うけれど、そうした人々が外国で「自分の人生を生きている」ということが、「私も夢や目標を見失わないぞ!」と刺激を与えてくれました。
そして、出会った外国人の友達や先生方にも感謝しています。「本当○○人らしいね!!」という人も入れば、「えっ、○○人らしくない!」なんていう人もいました。これまで、どの国籍と聞いただけで、どんな人なのかと勝手に想像してしまってごめんなさい。必ずしも、「典型的な○○人」という性格にすべての人が当てはまるわけがない。国籍はその人の個性の一部みたいなものだと感じました。また、彼らのおかげで、日本と日本人の良い面も悪い面も外国や外国人の良い面も悪い面もたくさん見えてきました。多彩な考えに触れることで、私は今までよりも幅広い視野を持つことができました。自分の価値観を持って判断し行動できるようになった今、絶対的な答えがない世の中でも、この先自分を見失わずに生きていけるような気がします。
日本に帰ってきた今、イギリスでも普通に暮らしていて学んだことがたくさんあるのだから、今度は日本でどれだけ自分が頑張れるかが楽しみです。ピンチをチャンスに変えられそうな気がします。
どんどん自分から行動してみてください。ほんの少しでも気になることがあれば、悩むよりも、なんでも良いので出来ることからやってみてください。もしかしたら、それが何かを掴む「チャンス」になる可能性があるかもしれません。たとえうまくいかなかったとしても、どんな些細なことからでも学べることはたくさんあります。
最後に、遠足と同じで日本の家に帰るまでが留学です。ちなみに私は、帰りの飛行機で研修中にお会いした日本人乗務員が偶然乗務していました。機内で自分も同じ仕事を目指していること、研修のことなどを話し、最後に成田到着後に彼女にお礼を言いました。すると「何かあったらいつでも相談してくださいね」とメールアドレスを教えてもらいました。最後の最後まで何が起こるか、どんな出会いがあるかわかりませんよ。
名前 | 万澤美恵さん |
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渡航先 | イギリス |
渡航期間 | 2009年9月〜2010年6月 |
渡航目的 | 語学力の向上と海外生活体験をすること! |