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渡航者体験談 / vol.17

ワーキングホリデーは自分と向き合うための闘いの旅

ワーホリは日本から逃げる手段だった

体験談を書こうとしたとき、まず、読み手のことを考えた。それから、もし自分が読むとしたら……と。そう考えてみると、私が知りたいのは体験者が“何をしてきたか”ではなく、“どんな思いで行ったのか”“帰国した今、何を思っているのか”だった。

そんな風に思ったのにはわけがあるのかもしれない。それは、私がワーキングホリデーを決意した理由。他の人とはちょっと違うのかもしれない、マイナスな理由。きっと普通は、「海外に行きたい!」って、強く思うんだろう。わくわく、どきどき。未知の世界に胸を弾ませて――。でも私の場合は、どうしても日本にいられなくて、海外に行くという選択肢しか残っていなかった。ワーキングホリデーは、私が逃げるための手段でしかなかった。約7ヶ月の海外生活を終えて、こうして体験談を書いている今でも胸が締め付けられるほど、壮絶で苦しい過去があった。けれど、ただ日本から逃げるだけでは意味がない。だから私は、このワーホリを“自分と向き合うための闘いの旅”と決め、日本を出た。つまり、海外に胸を弾ませて行ったわけではなかったのだ。

海外に行こうかどうしようか迷っている方へ海外に行くと決め、不安の中で準備をしている方へ

「どの体験談を読んでもピンとこなかった」
「なんだか逆にプレッシャーを感じた」

もしそんな人がいたら、私と同じなのかもしれない。はじめに書いた理由からか、私は渡航前にどんな体験談を読んでも、みんなが“すごいこと”をしているように感じていた。「自分にもこんな“すごいこと”ができるんだろうか、いや、しなければいけないのか、でも、何もできずに無駄に終わらせてしまうんじゃないか」と、不安やプレッシャーで押し潰されそうになっていた。

けれど、向こうで生活している中で気付いたことがある。無理に「自分らしく!意味のあることを!」なんて気負う必要はなかったんだと。感じたままに、素直に、気ままに。そうすれば自然と、自分らしいものになっていくから。

話は少し変わるけど、自分の中で何かを変えたい、と思って海外に行くことを決める人も多いと思う。それはいい決断だ。だって自分を取り巻く環境は、日本にいると不変に近いから。環境は、お金や時間や勇気、そんなものを使って作り出さなくては得られない時もあるのだ。日本にいたら、家族も友だちも、居酒屋もファミレスもカラオケも、コンビニもテレビも、そして自分の部屋も、日本語も。どんなに自分と真っ正面に向き合おうとしても、いつもと変わらない日常やたくさんの支え、それからたくさんの誘惑が、自然と自分を甘やかしてしまうから。そういう意味で言えば、「海外に行く」と決めた瞬間、あなたの未来はもう動き出しているのかもしれない。

それでも、「1年」や「半年」など長すぎる先のことに漠然と不安を感じたりもするだろう。私もそうだった。けれど、嫌になったり辛くなったりしたとき、なんとなくやり切ったと感じるようになったとき、そんなときは日本に帰ればいいだけのこと。誰に強要されたわけでもない。「行く」と決めたのは自分。自分が「これでいい」と心から納得できたのなら、たとえ当初の期間より短くとも、それはきっと大成功に終わる。

向こうでワーホリ仲間や体験者ともよく話した言葉。「長さじゃないよね」

2009年4月から11月。ワーキングホリデーでのこの約7ヶ月間で私は、そんなに特別なことなんてしてこなかった。大まかに言えば、

4月… ニュージーランド北島のオークランドに降り立つ。
当初計画になかった語学学校に通うことを決める。
6月… 学校に通いながら仕事を探す。
6~8月… バイトをしながら学校を延長。
8~9月… 日本へ一時帰国。
9月… 再渡航では南島のクライストチャーチに降り立つ。
就活を始めるも、当初翌年2月の予定だった帰国を11月に変更することを決め、就活を断念。
9~10月… 約1ヶ月半、ひたすらのんびりした生活を送る。
10~11月… アロマセラピー講習と語学学習が4週間のセットになった学校へ通う。
11月… 日本に帰る前にオークランドに寄り、お世話になった先生やバイト先、たくさんの友だちにさよならを。

そして11月中旬、約7ヶ月の旅を終えて帰国した。

こうして見れば本当に、特別なことなんて何もない。それでも私は、胸を張って「本当に行ってよかった」と言うことができる。別なことは何ひとつしてこなかった。けれど、たくさんの人に出会った。国籍を問わず、世界中のたくさんの人に。その数だけの、たくさんの生き方にも出会うことができた。生まれた国も、話す言葉も違う。そんな人たちと心を通わせることができる。一緒に笑うことができる。一緒に働くことができる。ときには、落ち込む私を一生懸命励ましてくれることもあった……。

そうしてたくさんの人と出会っているうちに地球を、大きくも小さく感じるようになった。なんだ、みんなおんなじ人間じゃないかって。せっかく地球に生まれたんだから、地球が人生のフィールドでいいじゃないか。日本で一生を終えるなんて、誰が決めたことなんだろう。それでも私は、海外に出たことで日本の良さを再確認し、帰国することを決めたのだけれど。でも、世界に対するものの見方がワーキングホリデーに行く前と後では全然違うのは確か。

自分次第で世界は変わる

ここまで、体験談らしい体験談は書いてこなかった。それでも、伝わっただろうか。私が「本当に行ってよかった」と思っていること。日本から逃げるように、海外に胸を弾ませるわけでもなく、語学学校さえも行くつもりではなく、ひたすら働き、よりたくさんの経験をしてこようと思っていた計画が、まったく違う内容へと大幅に変更することになった。それでも私は、納得し、満足している。あの日、「ワーホリに行こう」と決めてよかった。

けれど最後に1つだけ。それは、「海外には楽しいことが待っている」と、それだけを信じて行かないでほしいということ。行けば何かが待っていてくれるわけじゃない。自分を楽しませてくれるのは、自分の価値観と行動力しかないのだ。人生には、何が起こるのか誰もわからない。運命的な何かと出会うかもしれない。苦しい壁にぶつかるかもしれない。何も起こらないかもしれない。そんなとき、自分の考えに固執してただじっと待っているだけではもったいない。この7ヶ月間で私は、自分の体験やたくさんの人との出会いを通してそれを何度も痛感した。

感じたままに、素直に、気ままに。自分次第で、世界は何通りにも変わっていく。

物理的に不可能、金銭的に不可能。そんなことは決してない。海外に行けるチャンスと勇気があるのなら、私はそれを心から応援したい。

堤亜希子さん
名前 堤 亜紀子さん
渡航先 ニュージーランド
渡航期間 2009年4月~2009年11月
渡航目的 小さいころからの夢の実現と自立