まずは、留学に至った経緯をお話ししましょう。私は昔から英語が好きで、学生時代から英会話やTOEICの勉強などを続けてきました。しかし、大学卒業後に就職した会社では、英語を活かす機会はゼロ。理想と現実のギャップに悩むうちに、「もっと英語を勉強して仕事で使えるようになりたい」、「海外生活をして経験を積みたい」と強く思うようになったのです。悩みに悩んだ末、3年間の社会人生活にピリオドを打ち、退職を決めました。そして、バンクーバーへと旅立ったのです。
出発するにあたって、私には大きな目的が2つありました。1つは、通訳・翻訳分野でのスキルアップを目指す“ITDP(Interpreting and translation Diploma Programの略)”というコースを受講し、ディプロマ(卒業証書)を取得すること。2つめは、現地で通訳や翻訳の仕事をして、経験を積むこと。そのために入念に渡航後の計画も立てていました。当初は、現地の語学学校に数カ月通い、アルバイトをしながら英語力を身に付けて、5カ月目の11月にその通訳翻訳コースを受けるつもりだったのです。
ところが、到着後すぐに受けた学校選びのカウンセリングで、予定が大きく覆されます。スタッフの方から、「まずはITDPの試験を受けてみましょう。TOEICの基準点も足りているし、英会話を長くやっていたなら面接も大丈夫。もしダメでも、今の自分の位置がわかりますよ」とアドバイスされたからです。正直、少しためらいましたよ。でも、思い切って試験を受けてみると、見事合格! しかも、運良く希望していたITDPの2か月コースが、その月から始まるとのこと。そこで、コース開始までの2週間だけ語学学校に通い、予定を大幅に前倒しして、通訳・翻訳コースに臨むことにしました。じつは、この選択が、後で私に大きなチャンスをもたらしてくれるんです。
通訳・翻訳コースでは、毎日課題と試験があり、授業でも翻訳や通訳の練習が盛り沢山。朝から晩まで英語漬けです。通訳や翻訳をする場合は、背景知識がないと正しい訳はできません。そのため、医療、政治、国際問題などのテーマが週ごとに決められ、各分野の用語を学ぶとともに、通訳・翻訳の練習をしていきました。
2ヵ月後、無事にディプロマを取得。次は、いよいよ仕事探しです。私は、ある翻訳会社の募集に応募し、試験まで漕ぎつけました。そこで出題されたのは特許にまつわる難解な文書。日本語ですら見たこともない言い回しと、だらだら続く長い原文に、数分間、手が止まりました。しかし、ここで私は冷静になってしばらく考えたのです。“自分はなぜカナダまで来たのか。仕事を辞めて何がしたかったのか。そして、今どうするべきなのか…”。
原点に返ると、答えは明らかでした。私は、翻訳の仕事がしたくてカナダまで来たのです。目の前にあるのは、それをつかむための大きなチャンス(同時にピンチでもありましたが)。ここであきらめるわけにはいきません。あとはもう、自分を信じるだけ。“桑原真司はやるんだ! 自分を信じなきゃ”と自らを奮い立たせました。一部だけでもいいからきちんと翻訳しようと、制限時間いっぱいまで手を止めなかったのです。
ここでの踏ん張りによって面接に進んだ私は、ここぞとばかりに翻訳という仕事にかける思いをアピールしました。そして、2日後の夜、ついに採用の連絡をいただきました。あまりのうれしさに、気づいたときには目から涙がボロボロとあふれ出ていました。そうです。私はこの瞬間のためにカナダにきたんです。
こうして、“翻訳家になる!”という強い思いで希望の仕事を手にしたわけですが、もうひとつ、夢を叶えるのに影響したことがあります。それは、予定よりもスケジュールを早めたこと。この会社の採用条件は、“優れた英語力”“大卒で社会経験があること”に加えて、“ビザの有効期限が10カ月以上ある”というものでした。最初に予定を大幅に前倒しした私には、この時点でビザが10カ月残っていました。もし、計画通りに行動していたら、ビザの期限が条件にひっかかり、不採用になっていたでしょう。そう考えると、アドバイスしていただいた方には、心から感謝しています。
みなさんにもこんなことがあるかもしれませんから、迷ったときはひるまずに前進してみてください。壁にぶつかったときは、強い気持ちを持ち続けて、最後まであきらめずに、自分を信じましょう。そうすれば、きっとピンチを乗り越えられるはず。みなさんの旅が充実したものになることを、心から祈っています。
名前 | 桑原 真司さん |
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渡航先 | カナダ・バンクーバー |
渡航期間 | 2008年6月末~現在※2009年2月時点 |
渡航目的 | 通訳・翻訳卒業認定コースの卒業証書を取得し、現地で通訳か翻訳の仕事に就くこと。 |