「本当ですか」ボクは電話口で受話器を握りしめたまま、数秒間固まった。
昨年9月、ボクが昔から抱いていた大きな夢が叶いました。 それは、絵本作家になるということ。出版社の文芸社ビジュアルアートさんによる「文芸社ビジュアルアート出版文化賞2007」というコンテストの絵本部門に応募した作品「タンタンシャララ」が、最優秀賞に選ばれ、出版されることになったのです。「これから出版に向けていろいろと打ち合わせたい」編集の方から、そう言われました。
でもそのとき、ボクはニュージーランド渡航を目前に控えていたのです
ボクが海外渡航を思い立ったのも、絵がきっかけです。「タンタンシャララ」を書き終えた後、感じていたのは、むしろ自分自身に足りない部分。ボクの描く植物や風景は説得力がない、もっと世界に目を向けて、日本では見られない広大な風景に触れなくてはならない。それに今後のいろいろな活動を考えれば英語もしゃべれるようになった方が良い。そう思ってのことでした。
もうずいぶん前から決めて準備してきたことでしたから、渡航を遅らせるようなことはしたくありませんでした。どうにか出発前に可能な限り打ち合わせを済ませよう、そう思って頑張りましたけど、結果的には、間に合わず。最後の詰めは現地からのメールで行うことになりました。ですが、担当編集者の方が本当に親身になって支えて下さり、無事、すばらしい絵本を出版することができました。
これで思い残すことはない。ボクのニュージーランドでの生活には一気に熱が入りました。今回の絵本は、ボクの絵描きとしてのキャリアにおける出発点。そしてこのニュージーランドでの生活も、大切なスタートダッシュです。少しでも時間を無駄に過ごさないよう、語学勉強の傍ら、旅行に出かけ、南東の南半分を半周し、北部をまわり、透き通る水と生い茂る木々、美しい野鳥の囀り…日本ではなかなか見ることのできない壮大で繊細な自然と、美しい建築物や歴史的に価値のある遺産、可愛らしい風景の数々を目に焼き付けてまわりました。「これがボクに必要なもの、見たかったもの、描きたかった心の風景はこういうものなんだ」そう実感せずにはいられない、本当に感動的な旅でした。
滞在期間中、ボクは自分の絵をいろんな人に見てもらいたいという想いから、絵を描き溜め、オリジナルのグリーティングカードを約10種類作成し、販売活動も行いました。すると、いろんな街のいろんな人が、それらを手に取り、笑顔になってくれたのです。ボクの絵が世界に向けて少しずつ歩き出している…こんなに嬉しい事はないなと思いました。ボクはこういう喜びのために絵を描いているのかもしれない、そう感じずにはいられませんでした。
ボクの渡航生活は、ますますヒートアップ。クライストチャーチでは、出会った数人の若手日本人アーティストと共に、小規模の展覧会を開催。それぞれ異なる画風を持つ絵描きさんたちとの出会い、ここでも自分の絵を気に入ってくれたたくさんの人たちとの出会い。こういう“出会い”もまた、ボクにとって大切な経験となりました。
今、帰国後1週間が経ち、日本での絵描きとしての活動を再始動しようとしています。 残念ながらイラストレーターもミュージシャンもお笑い芸人も、最初はそれだけでは食べていけません。ボクはアルバイトで生計を立てながら挑戦を続けていますが、自分自身を精一杯信じて頑張ることができさえすれば、決して間違った道ではないと思います。もちろん、不安がないと言えば嘘になりますが、ボクの大切な宝物――ニュージーランドで出会った、ボクの絵を笑顔で手に取ってくれた人たちが最大の原動力。彼らの期待に応えたいという想いが、大自然に触れて一回り大きくなったボクを動かしてくれています。
実現するかどうかはさておき、いつかボクの絵本がいろんな国の言語に翻訳され、海外で出会った人たちの手元に届くことがあれば、絵描きとして本当に幸せです。ボクにとって、ニュージーランドの生活は宝物。渡航中のことを思い出すと、昔、友人に言われたこの言葉が一緒に頭に浮かんできます。「1分1秒無駄にするな」実際、その通りだった。決断して行って良かったと、そう実感しています。
名前 | 佐古 マサナオさん |
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渡航先 | ニュージーランド |
渡航期間 | 2008年4月~2009年4月 |
渡航目的 | 英語の習得と、日本では見られない景色を目に焼き付け、絵本作家兼イラストレーターとしての可能性を広げること。 |