現在、彼らが支援だけに頼らないでも給食を続けられるように、提携団体が農業のクラスを始めているんです。学校の中に農園を作って、給食に使う野菜を育てよう。一部は現金収入にして、作物がとれない時期にそのお金で給食費をまかなおう……いろんな意味がある取り組みなのですが、そういうときに農業を指導できる方がアフリカに行けるようなしくみがあればいいな、とは思いますね。
個人的にはエイズ孤児の子も見ているし、何かしたいという気持ちはもちろんあります。でも僕たちは、まず食糧問題を解決したいと言うのを第一義にしていて、それに向けて全力を尽くしたいと思っているんですよね。僕たちは国連ではないし、何でもかんでもできるかといえばそうではない。応援してくれる人たちからも「結局、あの団体は何がしたいの?」と思われてしまいます。それでは社会運動としてはいいけれど、ビジネスとしては成り立ちません。一般企業でも、いろんな提案をして潰れてしまうというのはよくあること。手を広げれば広げるほど、人もコストもかかります。それを今の規模でやったら、簡単に潰れてしまいます。だからやりたいという気持ちがあっても、ビジネス的にフォーカスして、その中でできることを探さなくてはいけないんです。例えば、今行なっているのは給食室支援や農業支援。これらはすべて幹に「食事」というキーワードがあるからできること。その幹からあまりにもはずれてしまうと、事業にブレが生じてしまうんですよね。
僕自身もわかっていないところがありますが…。やはり社会事業といってもビジネスですので、経営できる人じゃないといけないと思います。思いだけで突っ走っても、事業が回らなければ話になりませんから。だから、一般のビジネスを起こして経営していくのに必要な資質というものは、社会起業家にも求められると思います。それに加えて社会起業家は、社会的な成果を残さなくてはいけない。つまり金銭的な利益を横目で見つつも、社会に貢献していくというバランス感覚が必要なんですよね。
僕と同じ世代で、社会事業に興味を持つ人も増えているのですが、トラディショナルな営利社会にどっぷりつかっている人が多いので、どうしてもオマケ的に社会性をくっつけようとしてしまうんですよね。でもそれをやると、すぐに化けの皮ははがれてしまいます。支援してくれる人は、真剣ですからね。本当にソーシャルマインドがある人でないと、社会起業家はキツいと思います。
「社会に役立つことをしたい」という思いを周りの人と共有できるということが、一番のやりがいですね。本当に民間の世界じゃ考えられないくらい、僕たちの活動を助けてくれる人がいるんですよ。変化の輪も、どんどん広がってきているという気がします。
お気楽に遊びに行っただけでは、何のメリットも生まれません。でも文化的な違いや人の気質の違いなど、ヒューマンな部分にまで触れることができたのならば、それは社会事業にもダイレクトに役に立つと思います。社会事業は、世の中のズレを探しに行く仕事。だから海外生活の中で、そういう深いところまで見ることができた人は、仕事へのフィット感が高いはずですよ。
海外で生活しているときって、心の振幅が日本にいるときの2倍、3倍になると思う。楽しい時は2倍、3倍楽しいけれど、辛い時も2倍、3倍辛いんです。ただ、それを若いうちに経験するのであれば、耐えることもできるし、すべて吸収することもできます。年を重ねると、そういう辛さに耐えられなかったりするんですよ。だからその心の振幅を、一度海外生活の中で振り切ってみるというのは、とてもいい経験。いろんな意味で、人間の幅が大きくなると思います。
それから海外に何か学びに行くというよりも、何でもいいから思い切り体験してみてほしい。それが10年先、20年先で、意外なところでの基盤になってくるんです。ふとしたときの余裕だったり、ふとしたときのクリエイティビティだったり、ふとしたときの対人関係だったり。何が生きてくるかは誰にもわからないし、あまり細かいところを気にせず、どっぷり海外生活につかってほしいですね。僕だって、こういうところでは言えないようなこともしているけれど(笑)、若いうちなら「バカだね」で、許されますから。
2000年に国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム開発目標」では、2025年までに貧困を解消することが目標として掲げられています。2025年に貧困が解消されたら、僕たちも発展解消したい。世界の貧困がなくなってTFTもなくなる、というのが目標ですね。短期的に言えば、TFTは「日本から世界へ発信するプロジェクト」と謳っていますので、今年のアメリカ進出をきっかけにして、世界への認知度も広めていきたい。今後は、ピンクリボンのように世界中の人が認知してくれる運動にしていきたいです。
僕個人としては、ちょうど2025年にリタイアの年を迎えますので、それまではTFTに関わっていきたい。同じような形になるかはわかりませんが、その後もずっと社会事業をプロデュースする仕事は続けたいと思っています。また現在、若い人の間には、いろんなアイデアを持っている人が増えています。僕ができることであれば、その側面支援的なかかわり方もしていきたいですね。
インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之
ライター:室井瞳子
PHOTO:堀 修平
※今回の先輩からのメッセージの取材には、カナダ留学から帰ってきたばかりの留学経験者・林原詩苑さんが特別に参加。自身でも「アフリカの貧困に苦しむ子供たちのために働きたい」という夢を持つ林原さんに、取材の感想を伺いました。