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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>TABLE FOR TWO事務局長 小暮真久氏

先輩メッセージ / Message11:TABLE FOR TWO事務局長 小暮真久氏

ちなみに松竹で働く中で、海外生活が生きた経験は?

飲むことですね。オーストラリアは酒ばかり飲んでいましたから(笑)。でもそういうのも重要ですよ? どうしても留学というと、みんな表面的に見えるスキルばかりを身につけようとしますよね。僕はそれでは留学が薄い経験で終わってしまうと思う。やっぱり行ったからには、その国のカルチャーにどっぷりつかってみないと。それが今後生きる、生きないというのは、たぶん将来になってみないと分かりません。僕自身、オーストラリアののんびりしたカルチャーが生きているな、と感じるようになったのは、10年、20年経ってからのことでしたから。まあ、酒飲みカルチャーですけど(笑)。いずれにせよ留学はせっかくのチャンスですので、あまり表面的なスキルに偏らないほうがいいというのは感じますね。

小暮さんは会社勤めをしているときに、TFTプロジェクトのことを知ったそうですが。初めてTFTについて聞いたとき、どんな印象を持ちましたか?

前述の通り、僕はずっと社会事業に興味を抱いていたのですが、周りになかなか理解者がいなかったんですよ。そんな中で、TFTの創設者である近藤(正晃ジェームズ氏)が、僕の話を全部受け止めてくれて。その過程の中で近藤からTFTの話を教えてもらったんです。聞いてすぐに、「これはすごい!」と感動してしまいましたよ。

最近、ようやく社会起業家が脚光を浴び始めていますが、社会事業に対する周囲の認識はまだまだ低いと思います。企業を辞して、社会事業を専業にするということに対して迷いはありませんでしたか?

日本での認知度が低いからこそ、あえてこの世界に入ったという部分もあるんですよ。日本における社会事業の地位は、欧米に比べて低いけれど、必ずギャップが埋まる時期がくると思っていたんです。グローバル化の流れの中で、こうした産業が興るのは目に見えていましたし、あまり迷いはありませんでしたね。

でも入ってみたら、予想以上に大変でした。社会事業をビジネスとして始めたとしても、周りから見たら、ボランティアとの区別がつかないんですよ。「どうして給料をとるんだ?」「結局、本職は何をやっているの?」とか、いろいろ言われてしまうわけです。それに日本では、ボランティア自体にネガティブなイメージを持つ方も多くて。博愛主義なんて生ぬるくて嫌だ、という方が結構いたんですよね。そこはもう、いちいち説明していくしかないわけです。ただし今では、メディアが取り上げてくださったおかげで、少しずつ認知度もあがってきたと思っています。

ではなぜ、日本では社会事業に対しての認識が低いと思いますか?

これは僕の想像ですが、これまでの日本は経済発展が目標で、社会事業に目を向けたり、耳を傾けたりするゆとりがなかったんだと思います。僕の父の世代は、それこそ国を再建したり、自分の勤める会社を大きくしたりすることが、社会的ミッションだったんですよね。でも今は、日本の経済も飽和状態。そこでようやく、日本の技術力や豊かさをどう使おうか、という意識が出てきたんだと思います。やっとその余裕が出てきたと言ってもいいかもしれません。時代と言うよりも、タイミングの問題ですね。

欧米の場合は、事業の成功のレベルが違っていて、いわゆる信じられないような金持ちが早い時期に出ていました。そういう人たちの見る景色って、やっぱり他の人とは違うと思うんです。だからこそフォードやカーネギーは、かなり早い段階で社会事業に着手できたのではないでしょうか。もちろん日本でも渋沢栄一さんのように、やっている人はやっていました。でもなかなかそうした活動がマスには広がっていなかったんです。それがようやく、このタイミングで広がってきたんじゃないかと思うんですよね。

TFTの活動をしていく中で、日本人の意識が変わってきているという事例はありますか?

そうですね。最近、九州でTFTに参加してくれる団体が増えているんです。東京以上に時間はかかったんですよ。でも「こういう社会事業があるんだね」という認識が、すごく九州の中に広がっていて。次世代の農家の人たちから、TFTのメニューを作る上で参加をしたいと言う声が出ているんです。そういう事例をみると、社会事業に対する認識に広がりや深みが出てきたな、と思います。

TFTは2007年の活動開始から、2年間で200団体以上が導入されているそうですね。かなりスピード感を持って浸透していると思いますが、この勢いの背景には何があると思いますか?

まずひとつは、僕たち自身がスピード感を持って進めていこうと考えていたこと。それからもうひとつは、TFTのしくみ自体が非常にわかりやすく簡単だということですね。社会貢献を考える企業は多いですが、大企業ともなるとそこに割ける人員と時間はなかなかないのが実情。そんな中、TFTは導入がとても簡単なんです。それから間口も広いという点も、TFTの魅力。どんな世代、どんな属性の方でも参加ができるので、企業にとっても取り入れやすいのだと思います。あとは、発信力・影響力のある方が、初期の段階から応援してくれているということが大きいですね。

現在、TFTが支援している国は、ウガンダ、ルワンダ、マラウィの3カ国ということですが、こちらを選んだのはなぜですか?

世界にある最貧国の中でも政情が安定している国、というのが選んだ基準です。また、僕らが一緒に活動できる提携団体がしっかりあるということも重要ですね。実際、この3カ国は、給食がなければ、1日の中でもじゅうぶんな食事がとれないという子どもたちばかり。しかしながら支援をはじめて2年たった現在では、ようやく給食も根付いてきて、給食があることによって学校に行ける子どもたちも増えてきました。学習効果もかなり上がっていると聞いていますし、良循環が少しずつ回り始めていると実感しています。実際にアフリカの学校に行ってみると、食べている子と食べていない子は全然違うんですよ。食べている子は活力が表情にあらわれているんです。

著書のご紹介
「20円」で世界をつなぐ仕事

コンサル会社や大手エンタメ会社などを経て、社会起業家への道へと進んだ小暮氏による、社会起業・実践ガイド。熱い思いを書き連ねるだけではなく、社会性とビジネスをいかに両立するかが冷静な視点でつづられています。理想論では終わらない、社会事業の具体的なビジネスモデルを紹介してくれる一冊です。また本書を買うと、1冊につき20円がTABEL FOR TWOを通してアフリカに寄付されます。ぜひ、あなたもこの本を通して、世界とつながってみください。