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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>日本コーン・フェリー・インターナショナル 代表取締役会長  橘・フクシマ・咲江氏

先輩メッセージ / Message16:日本コーン・フェリー・インターナショナル 代表取締役会長 橘・フクシマ・咲江氏

海外でいろいろな経験をされてきた会長ですが、日本と海外とを比べたときに感じる一番大きな違いは何だと思いますか?

私はコーン・フェリーでは、95年から12年間、本社の取締役をつとめました。最初の6年はパートナーシップでしたので、取締役全員が社内の人間だったのですが、後半株をニューヨークの株式市場に上場してからの6年は私だけが社内取締役で他はすべて社外取締役だったんです。私だけが社内の人間で、アジア人であるのも女性であるのも私ひとりだけ。他のメンバーは、米国やヨーロッパの企業のCEO経験者ばかり。そういった方たちに自分の考えていることを伝えるというのは、私にとっては本当にチャレンジングなことでした。そこで一番大事なことは、自分の言っていることを理解してもらうという「努力」なんだと気づいたんですよね。

ところが、この「努力」というものが、日本人にはなかなかできない。理解してもらうために必要なのは、それぞれの立場の人が、それぞれの立場に自分を置いてみて、こういう話し方をしてくれたらわかりやすいな、と考えながら話すということ。つまりそれだけ多様な引き出しを持つ必要性があるんです。もちろん他の国の方も苦労はしていると思いますが、日本人は特に同質的な文化を持っていますから、そこは本当に苦手だと思います。相手に対する思いやりや気配りに関して言えば日本人はとても長けているけれど、多様な価値観に合わせての許容度が少ないと思います。

そういった引き出しの少ない日本人が、自分の考えを理解してもらうにはどうすればよいのでしょうか?

いろんな考えや背景を持つ人たちに自分の考えを理解してもらうには、共通項を使ったアプローチが必要だと思います。共通項で一番わかりやすいのは、統計や数字ですね。こういう統計や事実があって自分はこう思っている、という整理をしていくのが重要です。事実は一つですが、解釈は聞く人の立場、見方で10人いれば10通りあります。よく言われることですが、コップに半分の水を、半分しかないと考えるか、半分もあると見るかが良い例ですね。事実ではなく解釈の部分だけ話していると、誤解がどんどん生まれることになる。よくある伝言ゲームと同じです。それにどんな人間でも、自分の聞きたいことだけを聞くという悪癖を持っています。ある発言をしている人がいるときに、聴いている人は必ず自分の聴きたい枠にあてはめて聴いている。発言者が意図していることとは違う受け取り方をしている場合が多いんです。

では日本人がもっとグローバルな人間になるには、どうすればいいでしょうか?

まず、アメリカ人だから、日本人だから、といった考えを一切やめること。「We Japanese!」じゃなくて、Aさん、Bさん、Cさん。人間としてひとりの存在があって、それが偶然日本人だったり、女性だったりするだけ。よく男性は決断力がある、女性は気配りができる、と言われますが、男性で気配りが素晴らしい方もいるし、女性でものすごく決断力がある人もいる。これは本当に個性なんですよ。それは海外の人と接する時も同じ。その人の個性の一部が、ドイツ人であったり、背が高かったり、男性であったりするだけですから。

セミナーなどで話を聴きますと、まだまだ外資系に憧れている若者も多いようです。もし外資系に向く性格やタイプというのがあれば教えてください。

最近は外資系と言っても、十把一絡げにはできないと思います。外資系でも日本企業以上に人事慣行を持っているところもありますし、日本企業でも外国人株主が5割超えたら外資と言いますから、月によって外資になったり日系になったりする企業もありますし。たとえば日産は、組織的には日本の企業ですが、ルノーと資本提携をしているわけですから、正式にいえば外資系企業なんですよね。ですからこれからは「外資」「日系」という区別をしていくこと自体が問題になると考えています。

とは言いながら、私自身、外資と日系ではまだまだ差があると思っているんです。たとえば外資系は、入社した新卒の人を早く育てようとします。ところが日系企業は、非常にゆっくり育てようとする。残念ながら日本の教育制度が、そうなっているんですね。ですから私は教育の段階で、もっと外のグローバルな世界を意識してほしいと思っています。韓国や中国では、グローバルな国になろうと、国全体で頑張っています。特に韓国では昔はTOFELのスコアが日本と同じくらいだったのに、ここ10年ではるかに追い抜いてしまっています。日本はアジアのメジャーな国ではTOFELのスコアが一番低いんです。2007年ではモンゴルと同じスコアでした。

そしてそのモンゴルも、今グローバルな国になろうと必死で取り組んでいます。先日、北京で女性会議があって参加したところ、世界各国から1200人の参加者が来ていました。そのうち100人がモンゴル人で、日本人はたったの18人。モンゴルの同時通訳はいませんでしたから、彼女たちは何が話されているかはわかっていなかったかもしれません。ただ、国としてそれだけの人数を国際会議に送ってくる姿勢が、まず日本と違っていますよね。そうやってアジアのさまざまな国々がどんどんグローバルになっていく中で、日本だけがいつまでも草食系で、ガラパゴスシンドロームのままでいるとすると、それはもう絶対に追い抜かれてしまいますよね。外資系に向いているどうのよりも、まずその列に入れるような人間をしっかり教育で育てなくてはいけません。

それはどのような教育だとお考えですか?

一番重要なのは自立・自律した人間をつくるという教育ですね。どれだけ自分のことを自分で面倒見られるか、ということです。ちょっと話がそれますが、アメリカのホームステイでは日本の18歳位の男性は一番嫌われるそうです。というのも、その年代の日本の男の子たちはボーっとしているだけで何も自分でしないらしいです。ホームステイで泊めていただいているのに、手伝おうという意思もない。ボーっとおきてきて、朝ごはんが出てくるのを待って、食べ終わったらいなくなっちゃう。そういう基本的な自立・自律ができていない。自分で自分の面倒を見られない人間が、どうやってグローバルで生きていけますか? そういう意味で、草食男子というのは非常に危険だと思います。

そして自立に一番必要なのは、やはり「自己責任」。権利には、必ず責任がついてくるんです。日本の教育では、権利は教えたけど責任は教えなかった。そのマイナス面が今表面に出てきて、モンスターペアレンツやモンスター消費者が生まれてしまったのだと思います。悪い物事が起こると、すべて他人のせいにしてしまう。ある時、大学で教えている私の友達が、成績が悪くて出席もしない生徒の単位を落とそうとしたらしいんです。そしたら親が乗り込んできて「あなたの教え方が悪いから、うちの息子が勉強できない!」と言われたそうです。友達も呆れていましたよ。そんなことを大学生の親が言ってくることが、まずおかしい。

では若者が海外に出ることの意味はどこにあると思いますか?

やはり日本人は、できるだけ若い時から海外に出て、いろんな価値観に触れて、決して日本の考え方が全てで通用するわけじゃないということを学ぶべきだと思います。今日本で、安全で清潔でおいしい食事に囲まれている草食系男女。彼らが中国人や韓国人と同じ職場に入った時には、とても生き残れないのではと思います。中国人、韓国人たちは勉強熱心で、自己主張をしますし、ものすごくアグレッシブ。よく「今の中国や韓国は、日本が成長期だった頃と同じだからアグレッシブだ」という意見がありますが、私はそれだけではないと思います。中国には中華思想があり、韓国にはとても高いプライドがあり、そのスタンスが違うように見えます。日本は10年前くらいの感覚でボヤーッとしているうちに、あっという間に肉食系に食われて存在感がなくなる、という心配がありますね。同様にアグレッシブになる必要はありませんが、日本人として譲れない部分を明確にして、しかし柔軟に対応するしたたかさが必要だと思います。

最後に、海外を目指す若者にアドバイスをお願いします。

まず若いうちに違った環境に自分を置いてみること。それから「何か失敗したな」と思っても、経験は絶対に無駄にはならないので、失敗の中から学ぶということを心がけてほしいと思います。そしてその中でも大事なことは、何事も他人のせいにしないということですね。

転職を繰り返すジョブ・ホッパーになる人は、みんな「誰かが悪い」と言ってばかり。でも物事がうまくいかなかったときには、必ず自分に何割かの責任はあります。ひどい上司がいたのだったら、その上司を反面教師に使うことだってできたはずだし、その状況をどうにかして変えることはできたかもしれない。それなのに「この会社は社長が悪かった」「あっちの会社は部下が悪かった」と言いながら、転職を繰り返す人がいる。彼らには残念ながらラーニング(学習)がないと思います。私はそれだけは避けてほしい。失敗することで、なぜ失敗したんだろう、次に成功するにはどうすればいいんだろう、と考える。これが一番重要ですよね。

特に海外に行った時には、今までのように「こういうはずだったのに」という常識はまず通用しません。ですから失敗したときには、今後どこを気をつけないといけないか、しっかり学んでほしい。全部向こうが悪いと思っていたら、また同じ失敗を繰り返すだけです。失敗したときにこそ、自分に何が欠けていたかを学んでほしいですね。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平