先輩メッセージ / Message16:日本コーン・フェリー・インターナショナル 代表取締役会長 橘・フクシマ・咲江氏
世界最大手のエグゼクティブ・サーチ会社、コーン・フェリー・インターナショナルの日本担当代表取締役会長として活躍する橘・フクシマ・咲江氏。エグゼクティブ・サーチをはじめとする人材コンサルティングの仕事、また今後の日本人に必要なものについて、たっぷりお話を伺いました!
PROFILE
橘・フクシマ・咲江(たちばな さきえ)
日本コーン・フェリー・インターナショナル株式会社の代表取締役会長。清泉女子大学文学部英文科卒業後、国際基督教大学大学院日本語教授法研究過程、ハーバード大学大学院教育学修士課程、スタンフォード大学大学院経営修士課程(MBA)終了。ハーバード大学東アジア言語学科の日本語教師から、ブラックストン・インターナショナル株式会社、ベイン・アンド・カンパニー株式会社での企業のコンサルティング業務を経て、19991年より世界最大手の人材コンサルティング会社、コーン・フェリー・インターナショナルへ。花王、ソニー株式会社、株式会社ベネッセ・コーポレーション等の社外取締役も務め、現在ブリヂストン、パルコの社外取締役を務める。
労働人口の減少が進む日本では、これから必ず外国人の力を借りないといけない時代がやってきます。そんな中で、日本人と外国人の接着剤になれるような人材を育てたいという思いで、我々は留学支援のサイトを運営しております。本日は宜しくお願いいたします。
宜しくお願いします。最近、日本人の留学生は減っているようですね。ハーバード大学も毎年学部に日本人留学生が3、4人は入っていたのに、今年は1人だったそうです。韓国や中国の留学生の数が明らかに伸びていて、日本だけが減っているんですよ。私が出たスタンフォードのビジネス・スクールも、今年は3人しか日本人がいないと聞いています。
その理由は2つあって、ひとつは全体的に企業派遣が減っているので、相対的に日本人の願書の数が減っていること。もうひとつは、同じ27歳でも、他のアジアの国に比べて人材の競争力が下がっているということのようです。つまり、先ず、日本人は中国、韓国の出願者に比べて英語力がないということ。さらに、日本の企業は「遅く育てる」という風潮がありますから、同じ年齢でも中国人、韓国人のほうが明らかにマネージメント経験の深さがあるとのことです。ビジネス・スクールの方も、どっちが授業に貢献してくれるかと考えれば、当然、マネージメント経験の豊かな中国人、韓国人が選ばれることになる。行く人数も減っているし、採用される人数も減っている。これは本当に心配ですね。
そこで今回は、会長からも留学生の背中を押すようなお言葉をお預かりできればと思っております。まずエグゼクティブ・サーチ(役職者以上を対象にしたヘッド・ハンティング)という言葉を聞くと華やかな仕事というイメージがあるのですが、実際にはどのような業務内容なのですか?
現在、コーン・フェリーではエグゼクティブ・サーチだけでなく、アセスメントなどの他のサービスも導入しているため、仕事としては人材コンサルティングという定義をしています。
中心業務となるエグゼクティブ・サーチに関してお話させていただきますと、従来、エグゼクティブ・サーチには大きく分けて報酬の形態によって2種類の業務形態があります。ひとつは「コンティンジェンシー契約」と言って、いわゆる成功報酬。求人側と求職側を結びつけて、入社が決まった段階でフィーをとる形態ですね。現在、日本に人材コンサルティング会社は6000社以上あると言われていますが、ほとんどがこのタイプだと言われています。それからもうひとつは「リテーナー契約」と言って、クライアントは企業になります。企業からあらかじめコンサルティング料を前払いでお支払いいただいて、特定のポジションにベストの人材が見つかるまでお探しするというシステムです。現在、このリテーナー契約をグローバルなレベルでやっている人材コンサルティング会社は4、5社しかなく、その中でも弊社は一番大きな会社。世界87か所にオフィスがあり、そのうちの17か所がアジアパシフィックにあります。日本のオフィスは、37年前から営業をスタートしていますから、かなり早い段階での進出になりますね。
具体的にはどのような仕事をするのでしょうか?
まずクライアントである企業の方から「社長がリタイアするので、いい後任を探してほしい」といったご依頼があり、そこから人材探しが始まります。ただし、我々は外部の人間を探すだけではありません。本当に社内にいい人がいないのか、社内の人も見てみよう。そういった観点から、現在ではアセスメント業務もさせていただいております。というのも、企業側は「隣の芝生は青い」と思っている場合が非常に多いんです。よくよく拝見させていただくと、社内にいる人の方が他社の人よりも優秀であるということもある。そういう場合には、内部の方をアセスメントさせていただくということになります。
やはり、「内部にいない、他社から引っ張ってきた方が良い」という結論に至れば、そこからはメインの人探しの業務になります。最初に、クライアントがその採用対象のポジションに必要と考える人材要件を確認して、そこから要件にあった人を探すわけですが、これがなかなか大変で。クライアントが「こういう人が欲しい」と理想像を求めても、マーケットをよく知っている我々からすれば「そんな人は、日本にはいませんよ」ということが時としてあるんです。
特に2000年のドットコムバブルの頃は、ヨーロッパやアメリカのスタートアップIT企業から「日本で社長を探したい」という案件がたくさんありました。ところがクライアントの要件というのが「35歳以上はダメ」それで「5年以上のマネージメントの経験がある」。日本では、35歳で5年以上のマネージメントの経験をしている人なんてほとんどいませんから、まず見つかる可能性が低い。そこは日本の現状をクライアントにご説明して、年齢幅をあげていただく等の解決策を検討します。そうやって企業の戦略や必要なスペックと、我々が把握しているマーケットの常識も含めた提案書を出し、クライアントの承認をいただくことができれば、その時点からリテインされ、フィーが発生するというシステムですね。この日本市場に関する情報提供もサーチ進行中の重要な役割です。
後はロングリストを作って、ショートリストにしていくという作業。それで要件に合っていそうな方がいれば、お声がけをさせていただきます。当然ながら、その時点ではどういった企業からのオファーであるというのは一切口にすることはできませんので、まずは「転職に関心があるか」「本人が将来目指しているキャリアの方向性と、今回のオファーがあっているか」などを確認させていただいて。この方ならば、クライアントの企業もご本人もどちらもハッピーになる可能性が高い適任の方だな、と思えば、そこでようやく「こういった会社のポジションです」とお話をさせていただきます。そのうえで関心を持っていただければ、クライアントとの面談という運びになります。
ここまでくれば、後はお見合いと一緒ですね。間に入って、両方の印象や希望を聞きながら、お見合いを進め、双方が結婚の意思が固まると、最終的には双方にとって適切な給与を決めて、入社の運びとなります。それからこれはフリーサビースなのですが、入社して1カ月、2か月後くらいには、双方に行き違いが無いかを確認するカウンセリング的なことも行っています。やはりどれだけきちっとフォローしているかによって、案件のリピート率も変わってきすので。
やはりクライアントは外資系が多いのですか?
基本的には外資が多いのですが、最近は日系企業も増えてきました。日系企業からで多いのは、プライベートエクイティファンドの投資先企業の社長を探してほしいという依頼、それから本体は日系だけれどオーナーが外資系であるような企業からの依頼ですね。またいわゆる創業者社長が経営している企業で、次のステップをどうしようかという場合の依頼も増えています。2代目の方がまだ若くて無理だとか、他の道に進んだとか、いろんな事情での依頼がありますね。以前から日本企業の海外支社でのエグゼクティブの採用等を海外のオフィスに依頼して探してもらう等の需要は少しづつありましたが、これからは、日本企業のグローバル化に伴って増えるのではないかと思います。
そういうわけで近年は日本企業からの需要も広がりつつあります。ただ2008年は、いわゆるリーマンショック、国際的に言えばファイナンシャルクライシスがあったため、マーケット自体がガクッと収縮しました。我々のようなビジネスは景気に非常に左右されますから、なかなか大変な時期ではありましたよ。
逆に優秀な人たちがマーケットに出てくる時期でもあったのでは?
そうですね。リテーナー型である我々はクライアントがリテインして下さらないと仕事がないので、かなり機会損失があったのですが。コンティンジェンシー型のサーチ会社では、今までは中小の日本企業には行かないような方たちが、給料が下がってでも日本企業に行く、というケースがあったようです。なおかつ中小企業のほうでも、本来では金銭的に手が届かないような人材がマーケットに出てきているということで、積極的に採用に動いたという話も聞いています。
エグゼグティブ・サーチに警戒心を抱く人も多いのでは、と思うのですが。
私が入社した1990年代の初めは、確かにそういう傾向がありました。当時は、エグゼクティブ・サーチという言葉自体が知られていませんでした。ですから「ヘッド・ハンティング」という言葉を使って説明をするのですが、この言葉はあまり聞こえが良くなかったので、電話をしても、「どうして僕の名前を知っているんですか?」と、非常に警戒心を抱かれてしまうことも少なくありませんでした。しかし、ほとんどの場合、丁寧に説明すれば話を聞いてくれましたが、一般的には知名度がなく、中には「転職なんて全然考えてない!」と言ってガチャっと電話を切られることもありましたね。
変化が出てきたのは、90年代の終わりごろからですね。日本企業が低迷して、リストラが始まって……。転機となったのは山一証券の倒産でしょうか。大手の日本企業でも、破たんする。対日直接投資も増えてきて、いつ何どき自分の企業が外資系にならないとも限らない。「日本企業がいつまでも安全というわけじゃない」、というのが少しずつ浸透してきたのだと思います。それにつれて、転職というものに対する考え方が変わっただけでなく、日本企業を出ることで発生する機会損失も少なくなりましたよね。日本企業がのんびりできる大船ではなく、実は泥舟なのかもしれないという不安が出始めて。その結果、みなさん自分のキャリアについてしっかり考えるようになったのだと思います。
ちょうどその頃、朝日新聞だと思いますが、がおこなったアンケートでは、新入社員の人に「あなたは一生この会社で働き続けると思いますか?」という質問に対して、5割くらいの人が「変わると思う」と答えています。あのころはそれがとても画期的なデータでした。でも今、同じアンケートをとれば、また意見は二極化するのではないでしょうか。