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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社TOKYO AIM取引所 村木徹太郎社長

先輩メッセージ / Message05:株式会社TOKYO AIM取引所 村木徹太郎社長

これから海外に行く若者に対しては、海外のどういうところを見てきてほしいと思いますか?

やはり集約されるのは、人間関係です。人間関係と海外の文化、それからコミュニケーション能力。そもそも相手がいないとコミュニケーションもないので、まずはネットワークを作ること、友達を作ること。ひとつの国には、その国の人以外にも人はいますから、その国だけの友達では終わらない。アメリカなら、ヨーロッパからもアフリカからも人が来ます。国というひとつのハブに対して人が集まるわけです。これがネットワークになる。

ふたつめは文化を知ること。異文化を知ると、自分の中ですごく柔軟性が増えるんですよ。自分の頭の中、心の中の引き出しが増えるんです。当たり前ですが引き出しが多い方が良くて、そのためには少しでもいろんなシチュエーションになるべく若いときに身を置くべきなんです。人はそれを苦労とも呼んでいますが。やっぱり苦労は早くした方がいいんです。苦労しない限り引き出しは増えないし、もちろん引き出しの中身だって増えない。

それからコミュニケーション能力ですが、これはいろんな国の人たちと、いろんな局面で経験することが重要です。結局、言語はどこにいたって習得できます。日本にいたって、英語、中国語、スペイン語は習得できます。でも文化は、たとえば日本で中国語を勉強しても中国文化は吸収できないですよね。僕は、そこが一番の付加価値だと思う。日本で中国人の友達と中国語話す機会だって、ないよりはベターだけど、中国で日本人のいない環境に身を置いて、中国語を話したときに得られるいろんなもの。これはやっぱりすごく貴重なものだと思う。

そりゃ大変ですよ。言葉がわからないから教えてとか言いますよね。するとどこの国にも変な奴がいて「お前、バカか?」と、笑われたりもする。でもそういったことも含めて、若いうちに苦労をしておいたほうがいい。なるべく早くに苦労して、いろんなものを吸収した方がいいと思いますね。スポンジのようにね。

では金融業界を目指す若者に対して、村木社長が「これから金融に携わる上で、こういうモノを持っていてほしい」と考えるものはありますか?

僕は金融業界でもっと早く勉強しておけばよかったと思うのは、実際のビジネスの経験ですよね。カネボウ化粧品に行って、すごく勉強になったと思ったのは、やっぱり現場を見ることができたこと。

当初、産業再生機構は、3800億円出してカネボウ化粧品を買収しました。そこに僕はCFO兼海外担当として行ったんです。でも現場で化粧品を売っている女性はすごく優秀で、彼女たちにとったら、僕はほんとうに無知な人。メイクに使うコンシーラー、なんて聞いても、全然わかんないくらいですからね。それでひとつひとつレクチャーを受けました。それから現場の悩みを聞いて、盛り上げて。そして初めて、どんな戦略が可能なのか、実現しそうなのかしないのか、問題が見えてくるんです。

それは絶対に数字だけの世界では見えない。だから金融を目指す人に言うとすれば、やっぱりなるべく早く、ビジネスの現場を経験してほしいということ。ビジネスの現場と言っても、コンサルティングじゃないですよ。コンサルは、上の方から鳥瞰的に見ているだけで、全然ダメ。やらないよりはいいと思いますが。でもどうせやるんだったら、現場で汗をかいたほうがいい。

金融業界は閉じられていて、新卒から入るか、金融業界内での転職しかないようなイメージがあるのですが。

そこはきっと日本の構造的な問題ですね。前向きな転職が少なすぎるんです。横の動きが少ないから、金融の人は金融で終わってしまう。他の業界を経験することは回り道だろう、出世が遅れるだろう、という話になってしまう。でもきっと長い20年30年のキャリアからしたら、最初の2、3年なんて関係ないと思います。むしろ現場で、人に負けないスキルをモノにしていけばいいんです。

金融の世界では、何か自分に強みを持つことが大事ですからね。数字の分析力でもいいし、お客様とのリレーションシップでもいいし、物を売る能力でもいい。何でもいいからこれは負けないぞ、というものを持つことは必要。若い人には若い人なりの貢献度がありますから、何でもいいんです。エクセルをものすごくキレイに仕上げられるとか、接待をさせたら絶対に盛り上げられるとかね。何かこう、人に評価されるようなものがあるといいと思います。

なおかつ小さな成功経験を積み上げることが重要で。なかなか大物は釣りあげられませんが、小さな成功を積み上げていくと、自分の自信にもなりますよね。人はなかなか褒めてはくれませんが、自分の中で自信として心の中に収めて、そして次の自信を得るための目標を作っていく。そういう自己管理が、働く上では大事だと思います。それは海外にいようが日本にいようが、金融だろうがどこだろうが、関係なく共通だろうと思いますね。

海外を志望する若者の中には、ベンチャーに興味を持っている人も多くいます。TOKYO AIMは、ベンチャーにも門戸を開いた市場と言うことですが、村木社長がイメージされているベンチャーとはどういうものなんでしょうか?

やはり成長性を秘めている会社です。そして海外を視野に入れた戦略があればさらにすばらしいと思います。規模感で言うと、ベンチャーと言えども、プロの機関投資家が投資をしたいと思うような会社であるわけですから、ある程度の規模がないと上場は難しいかもしれません。

機関投資家が5万とか10万とかの投資はありえませんから。ただ僕の思いとしては、日本だけでなく世界を視野に入れたビジネスモデルで成長が期待できるもの。かつ、それが日本の強みを反映している。そういう会社がいいですね。たとえば、ものづくりだとか、環境にやさしいとか、日本が強いといわれる分野。そういう要素が入っていると、日本の会社として海外に展開しやすいし、売りやすいし、投資家もお金を入れやすいと思う。

若者がベンチャーを興していく、チャレンジしていくことに対してはどうお考えですか?

それはやっぱり世界で通用するものを作ってほしいですよね。Googleを作った若者は、アメリカで成功したいなんて、思っていなかったはずですよ。絶対にグローバルスタンダードだと思っているはず。なかなかこれまでの日本で、グローバルスタンダードを目指してきたという人は少ないと思う。でも今の若い人は、もっとそう思うようになってきていますよね。それはなぜか。日本がどんどん縮小しているからですね。「世界の2割のGDPだし、マーケットシェアを5%とれば十分じゃん!」。昔はそう思っていた。日本の市場は伸びていましたから。でも今は、5%取ったって、ジリ貧です。

じゃあ、どうすれば世界に通用するか。そのためには、ふたつ必要なことがあるんです。まずひとつは、言語ですね。最低でも英語がビジネスの世界で話せて、書けて、読めること。それは必須です。それからもうひとつは、自分の目で海外を見ていること。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、自分の目で見ないとわからないですよ。僕も海外出張によく行きますが、海外に行って自分の目で見て得るものと、100人の人に聞いて得るものとは全然違う。最後は絶対自分の目で見ないとダメですね。もちろん海外に行くのには、お金もかかるし、時間もかかるし、いつでも行けるわけではありません。海外をウォッチするレーダーを常に張って、日本でできる情報収集を必ずして、そしていろんな局面でどうしても見たいものは実際に行ってみておく。ボヤっと見に行ってもダメですよ。目的意識を持って見ること。情報に対しては、ハングリーであるべきなんです。

それからベンチャーを目指す人にもうひとつ思うのは、お金のために仕事をしてほしくないということですよね。上場して一攫千金という人はいるかもしれないけれど、できれば僕はもっと大きな志を抱いてほしい。大きなものに向かっていくと、自然とお金はついてくるんです。自分の本当に求めているものに向かっていけば、サポートしてくれる人も絶対に現れます。まずは夢と信念とでも言うのかな。自分の目的に向かって筋を曲げずに向かっていくことです。

では、村木社長にとって金融の魅力とは?

いっぱいありますよ。金融は「経済の米」だと思っています。人間が米を食べないと生きていけないように、金融と言う機能がなければ、世界の経済は今のように動いていかないんです。それから金融という世界にいることによって、ものすごくいろんなものが見える。情報も見えるし、会社も見えるし、人間関係も広がるし。そのダイナミズムは魅力ですね。

それから金融はエンドレス。日本に限らず世界を視野に入れれば、成長していくところはバンバンあるわけですから。僕は行きたいところもいっぱいあるんです。たとえば南米のブラジルだとか、本当に見てみたい。どんなとこだろう。想像するに、いろんなアイデアが湧いてきますよね。そしてそこでいろんなことが実際に形になるかもしれない。そういうワクワクを金融の世界で感じるんですよね。

東証に来たのもご縁ですが、考えてみるとスイス銀行時代に資本市場の部署に配属になり20年過ぎてぐるっと回って戻ってきた気がしますね。株式から始まって、プライベードエクイティ、企業の再生と、いろんなことをやりながら、今では取引場ですからね。自分でも、まさかここに来るとは想像もしていませんでした。ある意味、無邪気にやりたいことを追っかけてきたと思います。人からすれば「お前、何も考えていないな」なんて言われそうだけど、僕は無垢にやってきて良かったと思います。少しでも儲けたいとか思うと、だんだんズレてくるんですよ。

本当にたくさん、海外に行く若者にメッセージをいただけました。

本当に、海外でいろんなことを経験した方がいいですよ。ぜひ、若いうちにね。

やっぱり人間、年をとると凝り固まってしまうということですか?

年を取ると、エゴが大きくなるでしょう? 人前で言うのはカッコ悪いとか、恥ずかしいとか。日本の会議では、あまり手を上げる人もいないんですよね。日本人の頭をよぎるのは「こんなことを言うとバカだと思われるんじゃないか」という考え。でも思われたっていいじゃないですか。「バカなこと聞くかもしれませんが」と前置きすればいいんです。ある程度、頭で考えてわかんないなら、聞けばいい。そういうことが年を取るとできなくなる。その点、アメリカ人、アジアジ人は全然平気ですよね。KYそのもの(笑)。

でも、恥ずかしいとか、カッコ悪いとか、そういう気持ちが強すぎると、そのひとの進化のスピードが抑制されると思います。聞いた方がいいんです。そういうコミュニケーションが日本人は国際社会の中で比較的上手じゃない。遠慮してしまうんですよね。それは日本のワビサビであり、文化でもある。でも海外に行った瞬間、ワビサビの文化なんて誰も知らないです。日本では「僕は遠慮しているんです」と言えば、みんなわかってくれます。でも外国人は遠慮なんて言葉知りませんから、むしろマイナスですよ。「あの日本人はいつも話さない」「何も考えていないんじゃないか」ってね。

MBAでも、日本人がどんどん避けられているという話を聞きます。なぜかと言うと、貢献しないからですね。ディスカッションでも日本人だけ何も言わないそうです。ディスカッションでは、片言でも何か言わないといけない。それはグローバルなルールなんです。だから海外に行った瞬間にスイッチを変えないといけなくて、KY的な発言でもしなければいけない。同じ日本人の留学生仲間で飲んでいるときに、そんな発言をしたら、「あいつ、変なやつだな」と言われますからね、そういうシーンではスイッチバックをする。そういう臨機応変さが必要ですね。でもそれは場数を踏まないとできません。僕だって、もともとシャイなんです。

今日は、ありがとうございました。

いつも仕事の話だけだからね。こういう好き勝手な話もたまにはいいですね(笑)。

インタビュアー:株式会社エストレリータ代表取締役社長:鈴木信之

ライター:室井瞳子

PHOTO:堀 修平