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先輩メッセージ / Message24:東京インターナショナルスクール代表  坪谷ニュウェル郁子さん

アメリカで生活して感じた、日本人の長所と短所を教えてください。

私は、日本人ほど思いやりがあって、優しくて、自分のことよりも他人のことを考える人種はいないと思いますよ。世界を見渡してみても、そんな民族はひとりもいないと思います。中国人や韓国人などのアジア人たちは、「自分の家族のため」ということを考えたりしますけどね。でも基本的には自分たちが中心。アメリカは特にそうですよ。だから私はアメリカと日本は水と油だと思っています。はるかにヨーロッパのほうが日本とは文化的に近いですね。

逆に短所は、上から言われたことに疑問を持たないところですね。制度やお上に疑問を持たずに、言われたことをやればいいと思っている節がある。自分の軸を持たないように教育されているし、自分の軸を持っていると私のように組織をクビになってしまう(笑)。そこが日本人の弱点かな、と思います。

27歳で日本に戻ろうと思ったのは、なぜですか?

それは親のことが心配だったからです。古着会社もうまくいっていたのだけれど、日本で古着がブームになったのを見たら、何だか興味もなくなってきちゃって。他の日本人バイヤーたちに自分のルートを教えて帰ってきちゃいました。

ただ300万くらいは手元にお金が残っていたので、帰国する前にアメリカで1番と言われるものを全部経験してから帰ってくることにしたんです。ホテル、レストラン、ミュージカル、バレエ。1流と言われているところを全部経験して、150万くらい使ってから帰国しました。今なら娘のために使っちゃうけど、あの当時は独身だったし、気楽なもんですよ。

母親になるまえは、どこの国でも旅行に行ったら、トップとボトムと両方経験することにしていたんです。1泊300円くらいのところに泊まって、帰国する前の日には高級ホテルに泊まるんです。両方経験しないと、本当の姿はわからないですからね。ただタイのオリエンタルホテルでは、予約していたのに、本当に利用客なのか疑われちゃって(笑)。それまでは一泊300円のホテルに泊まっていたもんだから、体も臭いし、格好も汚いし。ヒッピーがいきなり入って来た、みたいな扱いですよ。おまけに「本当にホテルの利用客です」というステッカーまで胸に貼られちゃったの。面白いわよね(笑)。

帰国してからは、どんな仕事をされたのですか?

最初は通訳専門学校に就職しました。授業も午前1コマ、午後2コマというような感じだし、給料も良くて。あんまり授業をやらなくても、お金になったんですよね。ところが2学期が始まったころから、生徒がぱったり来なくなっちゃったの。それで私の授業を面白くないのかと思って、ひとりひとりに連絡をとりたいと学長に相談したんです。そしたら学長は「連絡をとる必要はない。授業料は1年分払ってもらっているし、来ても来なくても関係ない」と言うんです。そこで私の正義感に火が付いちゃってね。そんなの教育じゃな~い!ってね。それから自分の学校を開くぞ!と決意して、街中を自転車でぐるぐる回って、教室に良さそうな場所を探して。それで開いたのが、イングリッシュスタジオ三田校なんです。

生徒はどういった層だったのですか?

最初は、社会人のための英語学校だったんですよ。ところがある日、ご近所の方が子どもにも教えてほしいって、連れてきたんです。ご近所だから断れなくて、子どもにも教え始めたら、どんどん増えて来ちゃって。私も「子どもたちに何かしてあげたい」「子ども達に生きることの意味、生きる力を教えたい」って、いろいろカリキュラムを考えるようになって。もう、すっぽりハマっちゃったんです。半年で生徒が100人超えて、スタッフもどんどん増えて、気づいたら学校も大きくなっていました。

その後、「東京インターナショナルスクール」を作ることになった経緯を教えてください。

それは結婚と妊娠、出産ですね。娘を幼稚園にいれなくちゃいけないけれど、私の考える教育に合う幼稚園がなくて。ないなら作っちゃえばいい!という単純な発想です。今までだって、自分でカリキュラムを作っていたわけだし、それを全日制の幼稚園向きに変えればいいと思ったんです。

「東京インターナショナルスクール」を設立する際、最も苦労したことは?

学校を建てる土地が見つからないということですね。土地と建物に関しては、今でも本当に苦労していますよ。まず日本では、借金を背負っていない土地や建物を寄付されて、それで初めて学校法人格をもらうことができます。このしくみは、戦後、財閥から土地を寄付されて学校が建てられたという経緯から来ているのだけど、今の東京で学校を建てるだけの土地を借金なしで持っている人なんていないでしょう? それが戦後から変わっていないんだから、もう疲れちゃいますよ。

日本の教育制度は、戦後から硬直したままだし、私はそれが一番の問題だと思っています。ただ最近、私がいろいろと働きかけたおかげで、変わったこともあるんですよ。現在、世界中のインターナショナルスクールを認可する機関としてCIS(国際インターナショナル連盟)があるのですが、日本には、その認定を受けている学校が東京インターナショナルスクールを含めて8つあるんです。その8つの学校に限っては、「学校法人の申請があった場合、都道府県がそれを認めるように弾力的に取り扱う」ということに、ようやくなったんですよ。それでも「弾力的に」ですからね。

しかも現在の法律では、インターナショナルスクールに通っている外国人の子どもは、日本にはいないことになっているんですよ。日本では、日本国籍以外は短期滞在の子どもしか存在しないの。これも戦後の焼野原だった時代、外国人の子どもなんて日本に来ないような時代に作られた法律のせいですからね。「いない」って言われたって、「いるよ」って思いますよね。だって私の学校には元気に通っているわけですからね。60年、70年前のテレビも携帯電話もない時代に作られた法律が、いまだに変わっていないんだから、ひずみが出てくるのは当然ですよ。それで「ひずみを直そう」と言ったら、「前例がない」なんて言われてしまう。前例がないから、作ろうとしているのにね。子どもの教育の成果が出るのは20年先ですからね。これはなんとかしないといけないと思います。

日本と海外の教育を比べて、一番大きな違いはなんですか?

英語圏で言うとすれば、世界中で一番教育が進んでいるのはニュージーランドですね。その次に進んでいるのが、オーストラリア、カナダ、イギリス。英語圏の先進国ではアメリカの教育が一番遅れていますね。貧しいところの学校なんて、学校として成り立っていませんから。

ニュージーランドは、日本の教育と違って自由度が非常に高いと思います。日本のようにこの教科書を使わないといけないといった縛りもないし、カリキュラムもありません。非常に伸び伸びとした教育が受けられます。日本のように、「何月には何を教えないといけない」というような教育は、先進国では考えられないですよ。ほとんどの子どもたちが文章も読めないような発展途上国が、子ども達を一斉に教育しようというときに、こういうカリキュラムを組むならわかるけれど。日本のように教育水準が高い国で、ここまで教育に自由度がないなんて、普通はありえないことなんですよ。

日本の教育制度が変わらない理由は何だと思いますか?

それは変化しないで、今までやって来ることができたからですよね。変化しないでいいなら、それが一番楽ですから。でも90年にバブルがはじけたのに、20年たっても同じような価値観でやっている。政府も子ども手当だなんだって、どんどん借金を増やしている。今では、私の肩にも皆の肩にも、それぞれ800万ずつ借金がのし掛かっているんですよ。それを一体誰が払うというの? 私達の子どもですか? さらに先日は震災が起きて、国際社会では「JAPAN is dead」って言われているのに、世間では誰もそれを言っていない。

こんなにも優しくて、品性があって、素晴らしい日本人なのに、制度のせいで、こんなにぼんやりしちゃっている。明治時代に開国を起こそうとした人たちのほうが、はるかに柔軟性があるし、リーダーシップもあると思いますよ。

日本の英語教育に限定した場合、その問題点はどこにあると思いますか?

まずは時間数の不足ですね。どんな国籍の人がどんな言語を学ぶにかかわらず、知的な会話ができるようになるまでは2000時間かかると言われています。日本の英語教育では、その時間が絶対的に足りていませんね。それともうひとつは、日常会話を重視すると言いながらも、内容のないことを延々と教えている授業の内容だと思います。ちょっと前の英語の授業では、カッコの中に不定詞を入れろだの、構文を覚えろだの、面白くないことばかりでしたからね。ようやく「使える英語を楽しく覚えよう」というイベント式のものに変わってきたというのが、今の状況ですね。

著書の紹介
『英語のできる子どもを育てる』

文法や構文などにこだわらずに、楽しく英語を学習することをおすすめする一冊。例えば、年齢に関わらず「今日、何を食べましたか?」と教えこむような画一的な内容を習う英会話ではなく、幼児だったら遊びや家族、中学生だったら学生生活や友人関係など、興味のある事柄に即した学習法を提案。アルファベットも単純に「エイ・ビー・シー・・・」ではなく、「ア・バ・ク・デュ・・・」など、単語の中で頻繁に使われる音に置き変えて歌うことを提案するなど、革新的な学習法が紹介されています。(講談社現代新書)

『絶対、わが子は「英語のできる子」に!』

英語を話せるようになるまで2000時間が必要と言われている中で、いかに2000時間の英語学習時間を確保するか。何歳からどんな勉強をさせればいいのか。どのくらいお金がかかるのか。具体例をあげつつ、わかりやすく解説。またインターナショナルスクールに通わせる際の親の覚悟などについても、インターナショナルスクールの代表を務める坪谷さんならではの視点から詳しく述べられています。保護者だけでなく、教育の現場に立つ人にも読んでいただきたい一冊です。(PHP研究所)