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先輩メッセージ / Message23:ハーバード・ビジネス・スクール 日本リサーチ・センター長  佐藤信雄氏

2年間でどのくらいのケースを扱うのですか?

2年間で、約500の企業のケースを扱います。そしてそのすべてが、あなたがこの主役の立場ならどうするか、というシミュレーションになっています。その立場というのは必ずリーダーシップのポジションですから、生徒達は授業を通してリーダーになるためのトレーニングを受けていることになる。HBSがリーダーを育てる学校と言われているのは、そういう点からだと思います。

日本で言うリーダーと、ハーバードで定義するリーダーとの違いがあれば教えてください。

日本でのリーダーは、「お神輿に乗るリーダー」ですね。下にいる人達が方向を決めて、一生懸命頑張るという形。でもハーバードが定義するリーダーは、「イニシアティブを取るリーダー」。自分でアイデアを出して、そのアイデアを実現するために組織を引っ張っていくのが、ハーバードで言うリーダーだと思います。

そしてHBSでは、どうやったらイニシアティブを取れるか、徹底的にトレーニングを受けます。要するにリーダーとしての資質を鍛えられるわけですね。ケースによっては何が問題なのか、はっきりしていない場合もある。そうしたケースの中から、問題点を見つけようとすることで、問題に対する感受性を高める。それは問題をできるだけ早く発見して、解決していくというリーダーの資質につながっていくわけです。いざというときに行動がとれる、というリーダーの心構えを作っていくのがHBSという学校なんですよ。

留学時代に苦労したこと、また行って良かったことを教えてください。

苦労したのは、やはり最初の半年間ですね。半年くらいすると英語も慣れてくるし、しだいに他の生徒が決してすごいことを言っているわけではないということもわかってくる。結局、みんな点数をとるために、とにかく手を挙げて発言しようとしているだけなんですよ。ある程度思いついたら、思いつきでもいいから挙手をする。HBSでは、それぐらいでちょうどいいんです。もちろんそうした様式は、日本人のカルチャーとは合わないところもあると思います。でも僕は、どうせ2年間行くならインパクトがあるところに行きたいと思っていたし、やはりHBSを選んで良かったと思っています。精神的にもだいぶタフになりましたよ。

それからもうひとつ大きな収穫は、昔は繁栄していたのに今はダメになってしまった企業のケースを学べたこと。どんなにいい会社でも、外的な環境の変化に合わせて自らを変えていかないとダメになってしまうという厳しさを勉強して。それが、僕が興銀を辞めるときのことにもつながっているんですよね。

興銀を辞めた経緯について、もう少し詳しく教えてください。

ロンドン勤務から帰ってきて1年ほど経った頃に、エゴンゼンダーというエグゼクティブ・サーチ・ファームから「うちに来ないか」というアプローチがあって。それをきっかけに興銀の将来について考えるようになったんです。

当時の興銀は、5年を超える期間で資金を貸していく機関、すなわち長期信用銀行でした。なぜ戦後の日本で長期信用銀行が必要だったかと言えば、それは日本の経済がまだ発展しておらず、資本市場が出来ていなかったから。一般的に企業は株や債券を発行して長期資金を調達しますが、戦後の日本ではそれができなかったんですね。しかしながら経済が発展していく中で、企業は設備投資をしなくてはいけないし、当然長期資金が必要になる。したがって長期資金を貸し付けてくれる長期信用銀行は、じゅうぶんな存在意義があったんですよね。

ところが経済が発達し、資本市場が発達すると、今度は企業のほうが長期信用銀行からお金を借りるのを嫌がる。というのは、銀行からお金を借りると金利が高いんですね。企業自体の信用力が出てくれば、銀行を通さずとも社債を発行して、有利なコストで資金を調達できるわけなんです。あるいは株式を発行する。結局、グローバルに見てみると、長期資金を貸す銀行と言うのは、発展途上国の開発銀行のモデルなんです。先進国の銀行の形ではないんですよ。そこで僕の心に去来したのが、HBSで習ったこと。すなわち、どんな素晴らしい会社であっても、外的な環境にうまく対応していかないと会社はダメになるということだったんですね。

興銀に長期信用銀行としての役割は必要なくなったと思われたのですね。

ええ。これからは、興銀自体がビジネスモデルを変えていかないと難しいと感じました。ところが、興銀はなかなかそういう方向には進まなかったんですね。と言うのも、方向転換するには興銀はあまりにも成功していたんです。給料も高かったし、福利厚生も充実していたし、みんなが就職したいという企業のひとつでした。あまりにも過去の成功体験が強いので、外的な環境の変化をシビアに見て変化する準備ができていなかったんですよ。結局、大企業病みたいなものですね。

それでも僕が入行した頃は、非常に起業家精神もあって、新しいことをいろいろやっていこうという動きがあったんですよ。でも僕がロンドンに行っている間に、ものすごく組織が大きくなって、非常に風通しの悪い銀行になっていたんです。下の人は上の人に物を言わないし、自浄作用も働かない。これでは、興銀が外的な環境に合わせて自ら変わることはないな、と思いました。長期信用銀行は衰退産業である。そしてその中にある興銀に、自ら変わろうとする意志がない。と言うことは、いずれ興銀も衰退するだろう……。自分の中で、そういう結論が出たんです。

エゴンゼンターからのオファーを受けようと思ったのはなぜですか?

日本の経済がこれから発達していく中で、一番重要になるのは「人」だろうと思ったんです。企業に必要なのは、「人・物・金」と言うけれど、日本の企業には物や金はある。ところが、いい人材というのは、見渡してもなかなかいない。確かに大企業や官僚の中には優秀な人もいます。しかしながら新しい分野や産業には、優秀な人がなかなか行こうとしないんですよね。

外資系も含めて、新しい企業がどんどん伸びないと、日本の経済のダイナミズムは復活しません。しかしそういった分野には人材がいない。その一方で、大企業には優秀な人材がいるけれど、必ずしも彼らは組織の中で有効活用されているわけではない。水が高いところから低い所に流れるように、人もより必要とされるところにいくべきで、そうであれば、これからはもっと人材が流動化していく時代がくるはずだ。そう仮定すると、エグゼクティブ・サーチ・ファームのような人材コンサルティング会社は、大きく成長する可能性がある……。成長産業への転職であれば、リスクはその分低いだろう。そんな風に考えて、この産業に転職することにしたんです。

人材コンサルティング会社の中でもエゴンゼンダーを選んだのは、最初にアプローチしてきたということもありますが、何より社風が僕にフィットしていたからですね。と言うのも、エゴンゼンダーは基本的に終身雇用制。コンサルタントの給料もpay for performanceじゃありません。なぜそのような形にしているかというと、歩合制にすると企業内で競争が起きてしまうという考えからなんですよ。お客さんを奪い合ったり、情報をシェアしなくなったり、足を引っ張り合ったりと、中でエネルギーを使ってしまう。しかしエゴンゼンダーは「社内での競争はなくして、すべてのエネルギーをお客様のために使いなさい」という考え方。“クライアント ファースト”という企業理念が最初にあって、終身雇用も年功序列も、そのためのしくみなんですよね。いろんな意味で、この会社はいいな、と思いました。

エゴンゼンダーではどのような業務を?

まず主な業務はエグゼクティブ・サーチ。クライアントが、外部から優秀な人を御招きするための手伝いですね。それから2番目に、クライアントの組織に属しているマネージャーを第3者の我々が評価をするという業務。そういった方々が、市場と比べてどの程度のレベルにあるか、どこが強みでどこが弱みか。そういったことを診断していくマネージメント・アプレイザルの業務があります。それから最後に社外取締役の登用と、ボード・コンサルティングの業務。取締役会がきちんと機能しているかを判断したり、取締役会のメンバーの構成を考えてメンバーの登用をするといった業務です。僕は金融出身ですから、主に金融部門のクライアントを担当してコンサル業務を行っていました。

日本リサーチセンター編著の紹介
「人財革命」「会社を変える 会社を変わる」「自信のなさは努力で埋められます」「売れる人材―エグゼクティブ・サーチの現場から」「40歳までの『売れるキャリア』の作り方」

ハーバード・ビジネス・スクールの教材として実際に使われた、日本企業の事例集。日本を代表する企業10社の戦略上の問題点や葛藤を描いたケースを収録。有名企業や人物の成長の軌跡も描かれており、読み物としても楽しめます。自分がケースの主人公だったらこう動く、などトレーニングしながら読むのもおすすめです。HBSの授業に興味がある人は、ぜひ手にとってみてください。