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シリーズ「意見・異見・偉見」

第3章 医療とは何か

先生の発想は、もう医療の枠を超えていますね。

いや、きっと多くの皆さんが医療と医療機関を混同しているだけだと思いますよ。医療と言うのは、「いかにして人がよく生き、いかにしてよく死ぬか」その全過程をプロデュースする総合生活産業なんです。だから安心できる衣食住の提供から現在のマスコミに替わる質の高いネットワークの構築、、最終的には葬祭業も皆医療の仕事なんです。ところがほとんどの国民は、医療機関=医療、病院や診療所で行われている診療行為だけが医療だと思っている。

病院とは一体何でしょう。これは単なる箱です。畑の真ん中で手術をするわけにはいかないから、箱を作って、そこに患者を連れてくることにした。それが病院です。しかし私は、医療のほとんどはこの箱の外で行える、いや、行うべきである、と考えています。

例をあげましょう。回復期リハビリテーション病棟で、作業療法士が何をやっているか。彼らは、学校で教えられた通りに、患者さんに箸で豆を掴む練習をさせている。でも、彼らは日常生活の中で、自分自身箸で豆を掴もうとしたことがあるのでしょうか。ないならそれは一体全体何のための訓練なんでしょう。コンピューター技術者が脳卒中になってリハビリをするというのであれば、急性期の治療が終わり次第さっさと退院してもらい、元の職場に連れていくのが一番手っ取り早い。やってみて元に戻れそうなら、職場で訓練して、一定の能力が確認できた時点で病院が責任を持って就労能力証明書を発行すればいい。最初から見込みがないなら、彼の希望と適性を勘案して、将来就労可能な職場でリハビリを行えば、それが一番確実でしょう。

私たちが医療というものをどう捉えているのかを物語るエピソードとして、一例を挙げるなら、当法人は今農業分野への進出を計画しています。今年はまず、プラントメーカーなどと提携して法人の一施設であるリハビリテーション病院の敷地内に野菜工場、即ち水耕栽培用のドームを建設する予定です。今なぜ水耕栽培かといえば、第一に、先ほどお話したように安全な食材の提供は医療の仕事と考えるからであり、第2に農作業がリハビリテーションや、不幸にして後遺障害を残した患者さん達の就労支援に役立つからです。水耕栽培というのは面白いもので、培養液の組成を工夫することによって、理論的にはカリウム含有量を低減させたり、マグネシウムやビタミン類を負荷した野菜をつくることができる。

糖尿病性腎症で、通常の野菜や果物が食べられない人でもカリウム含有量が少ない野菜なら食べられる可能性があり、これはそういった患者さんにとって大きな福音になりますね。その過程で多くの障害者や高齢者に職場、居場所が与えられることは言うまでもない。信頼できる医療機関が健康と生活のための情報を積極的に発信する、自己の監修の元に安心できる食材を生産し自分のブランドで販売する、就労を支援し老後の安心をも保障するとなれば、そこには多くの人々が集まってきて21世紀型の病院を中心としたまちが形成され栄えていくに違いない、それが私たちの理想です。

農業分野への進出については、先に述べた牧畜や薬種の栽培、販売のための苗を育てる育苗、温室を用いての観賞用植物の栽培なども検討しています。温室で花を作って、それをリハビリテーション病院でプリザーブドフラワーに加工し、アレンジメントにして販売する。その過程はリハビリテーションに利用でき、温室での作業は障害を残して退院した患者さんたちに就労の場を提供する。そうやって病院を中心とした循環型社会ができあがれば、医療費の高騰や医療従事者の不足など多くの問題が解決されることになり、今後全世界的に進むであろう少子高齢化に対する日本発の解決策を世界に示すことも出来ますね。

更に言えば、私はお葬式も医療の果たすべき役割の一つだと思っています。先程も言った通り、日本の総医療費は35兆円。ちなみに葬祭業は2兆円弱です。すなわち、死者を見送るだけの葬祭業の売り上げが、全人口を対象とする総医療費の5%以上にあたるということです。これは異常なことですよ。今はまだ、お葬式も病院の仕事ときくと、皆驚いたような顔をします。でも、これからは確実にそういう時代になると思います。我々の病院で亡くなる方の中には、1人暮らしの高齢者がたくさんおられます。彼らが亡くなると、まず我々はご遺体を引き取ってくださる身寄りを探します。ところが、身寄りがない場合、また遠方で到底引き取りに来られない場合も多々あります。火葬をしなければ運ぶこともできないし、普通お葬式をしなければ火葬はできません。では、どうすればいいか。病院の中の霊安室を大きくして、小型のセレモニーホールとし、そこでお通夜ができるようにすればいい。故人が高齢で家族や友人知己が少ない場合、治療に当ったスタッフがお葬式に参加して、そしてきちんと見送ってあげればいい。お花についても病院経営のファームのものを用いるとするなら、病院運営のお葬式にはほとんど経費がかからないことになり、売り上げは病院にそのまま落ちてくる。患者さんをきちんと見送ることができ、遺族の負担は軽減されるし、なおかつ病院の利益率も上がる。まさに一石三鳥ですよ。