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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社せおん 代表取締役  越純一郎氏

先輩メッセージ / Message21:株式会社せおん 代表取締役 越純一郎氏

有利な人生の選択肢の中に英語を掲げていらっしゃいますが、英語を習得するためには、何をするべきでしょうか?

ステップ4を見てください。結論から言えば、とにかく何でもいいから、1回は外国に出たほうがいいということですね。どんな方法でも1回は留学したほうがいい。ロー・スクール、ビジネス・スクール、あるいはカルチャー・スクールでも、行かないよりは行ったほうがマシです。

決心さえあれば、留学の方法は必ず見つかります。お金がないのであれば、お金を解決する方法もあります。最初から難しいだろうとあきらめた人が、結局は実現できない。あきらめなければ、実現できるんです。実現できるかできないかの運命の分かれ道は、「あきらめないかどうか」です。能力があるかないかは、分かれ道にはなりません。お金があるかないかも、分かれ道にはなりません。

例えば、財団法人グルー・バンクロフト基金という団体の奨学金制度があります。これは高校3年生を対象にするもので、合格するとアメリカの大学に4年間留学するための資金を全部出してくれます。学費も生活費も、全部です。金額としては2000万円くらいですね。しかもこの財団は、毎年複数の合格者を出すのですが、昨年の応募者はたった23人です。逆に言うと、合格率はすごく高いのです。それからこんな方法もあります。アメリカの大学に手紙を書いて、「自分は日本人でこういう希望があるけれど、お金がない」と訴える。片っ端から書いていくとですね、中には一つくらい学費を免除してあげるというところが出てくるんです。実際にそれで道を切り開いた人もいます。また、少し前の話ですが、どうしても入りたいという大学の前に座り込みをして、「入れてくれ」と言った日本人がいました。その方も、留学後には大成功していますね。要するに、そういう気持ちが有るか無いかだけなんです。

人生に成功するために必要な資質のようなものはあるのでしょうか?

成功された方々は、共通点はありますね。大多数の成功者に共通した点があるというのは、要するに「ものには、必ず理由がある」(偶然ではない)ということです。第一に、能力だけで成功した人はいないという共通点があります。能力的にピカピカだという人は、半分くらいでしょう。必ずしも能力面では恵まれてはいなかったという人も多い。東京大学出身、ハーバード出身、そういう人ばっかりじゃないのです。2つめの共通点は、「最初はお金がなかった」という人が多い。お金持の家に生まれてしまうと、固い決心や強烈な憧れを持つことができなくなってしまうというデメリットもありますね。そして3つめの共通点、これが大事なのですが、成功された方々は、自分の考えと力によって自分の人生を企画・設計しようという考えのもとに、一年一年を暮らしている。ぼんやりと生きてはいません。例を挙げましょう。

私が日本興業銀行にいた頃、新卒で私の部下になった人がいました。当時、私が担当していた業務は、日本企業と外国企業との間のM&Aで、これは金融業務の中でも一番難しいものでした。契約書も何もすべて英語、もちろん交渉も英語です。中でも私は医療関係のM&Aを担当していましたから、病気の名前から、薬の名前から、化学物質の名前から、全部英語と日本語の両方で覚えるんですね。この英語を覚える努力というのは、皆さんには想像できないと思います。やった人じゃないとわからない。外国に観光旅行に行って、レストランでメニューを注文できる、なんていうレベルの英語とは格段に違うんです。そういう非常に難しい業務をやっているところに、新卒として彼が入って来たのです。彼は東大出身でも一橋出身でもないし、オドオドしていたし、不器用そうに見えました。そして何より英語ができませんでした。私は彼に向って、「わからないことがあったら、何でも遠慮なく聞いてね。」と言いました。けれども、「どうせ無理だろうな」と思っていましたよ。しかし、彼は決然として言いましたね。「僕は“一年一芸”ということをやってきました。大学1年でスキーに打ち込み、2年のときはコンピューターに打ち込み、毎年、ひとつずつ芸を身に付けてきました。だから今年は英語に打ち込みます。」と言ったんです。そして彼は実際に努力をしたのです。

その後、私が二度目のNY勤務をしているときに、30歳くらいになった彼が出張で私のところを訪ねてくれたことがあったのですが、立派になった彼を見て、私は確信しました。「いい大学を出たから偉いというものじゃない。東大やハーバードを出たって、なんとなく生きている奴は、目が死んでいる。」。それに対して、「今年は英語に打ち込みます」「今年はセキュリタイゼーションを勉強します」と、23歳の時も、24歳の時も、25歳の時も、26歳の時も、その後もずっと努力してきた人間というのは、これほど大きな人間になるのかと、私はしみじみ感じました。彼に能力があったかと言えば、それは十分ではなかったかもしれない。しかし自分の思いがあって、きちんと自分の人生を設計して、そのために努力したという点は、他の人生の成功者と共通している。①金がない、②能力がない、でも③志がある。人生で成功する人には、この3点がだいたい共通していると思います。

昔の方ならば、トヨタ自動車を創業した豊田喜一郎氏、ホンダを創業した本田宗一郎氏、ソニーを創業した井深大氏。どの方も、「技術はない」、「金はない」、でも「志が高かった」、この3つは共通していますよね。皆さん、ソニーの最初の製品って知っていますか? 電気炊飯器ですよ。木でできた桶の底にニクロム線を張っただけ。これがソニーの最初の製品。創業からの数年間は、これしか製品はなかったんです。それでも井深氏の志は高かった。「自分の研究開発によって、戦争でズタズタになった日本の通信網を復活させるんだ」「日本の経済復興を実現するんだ」という決心だったのです。トヨタが乗用車を作ったのは戦後のことにすぎません。戦前は、トラックを作る経験しかありませんでした。しかも、戦後のトヨタは社員に給料が払えなくて、労働争議が起きているんです。「トヨタには最初から資金力があったのではないか?」と思う人がいれば、それは単なる勘違いですね。だけど、豊田喜一郎氏は「これからの日本に自動車産業が無くては、日本は立ちゆかない。もし、どこかの財閥がやってくれればそれで良いが、誰もやらないではないか。それなら、自分がやらねばならない。誰かが、これをやらねばならぬ。」と考えて、経済恐慌のなかで、豊田織機という機械メーカーを自動車会社に変身させていったのです。ホンダが最初にヨーロッパのオートレースである「マン島レース」に参加した時、エンジンの回転数は1分間に約1000回転。ヨーロッパのメーカーはその頃、既に1分間1万回転を超えていました。10倍の差があったんです。「最初からホンダに技術があった」のではないんです。また、ホンダには資金もありませんでした。何しろ、私が所属していた日本興業銀行も、ホンダが四輪車作りたいと言ったときに融資を断っているんですよ。資金も技術もなかった。でも、志と努力で道を切り開いたのです。

有名な話があります。あるとき、本田宗一郎氏が銀行に借金をして、そのお金で西ドイツから工作機械を輸入したんです。それを見た銀行の人は「十億円もする工作機械を輸入してしまって、もし、この工作機械で作った製品が売れなかったら、あなたの会社はつぶれるんですよ。分かってるんですか、本田さん?」と言ったそうです。ところが、本田氏は「それで何の問題があるんだ」と答えました。「俺の目は節穴じゃない。この工作機械は、間違いなく現段階で世界最高レベルだ。もう日本に持って来てしまったんだから、もし、私の会社がつぶれてしまったら、誰かがこの機械を使えばいい。そうしたら、いい製品ができるだろうし、日本経済の復興にも役立つではないか。日本のために役立つではないか。何の問題があるんだ」と。

このエピソードからもわかりますよね。本田氏には資金はなかった、技術もなかった。でも高い志があったんです。こういう方が成功しますね。金持ちの家に生まれるというのは、その意味で不幸なことですね。それを非常に強調しているのは、NYにカーネギーホールを作ったカーネギーです。彼は石油業で財をなした人ですが、回想録で書いていますよね。「貧乏な家に生まれたからこそ、自分はなんとか自分の力で生きようという力が湧いた。もし、苦労しなくてもやっていける程度の家に生まれていたら、とてもそういう風にならなかったろう。人生は平等じゃない。幸運も不運もあるけど、一番の不運は金持ちの家に生まれることだ。これ以上の不運があるか……。」そういうことをカーネギーは回想録で書いています。

ステップ5では、英語の厳しさについて書かれています。これについてもご教授いただけますか?

はい。では、次のステップに行きましょう。

英語の壁は最後まで厚いですよ。もし今、英語ができない20歳の日本人がNYに移住して、60歳まで過ごしたとします。それでも彼は、アメリカ人が話す英語の60%、70%しか理解できるようにはなりません。そういうものです。しかも、その人の発音は、しょせんカタカナです。英語の壁は、最後までものすごく厚いです。

私がNYに勤務している頃、留学を終えた日本人が就職の面接によく来ました。彼らは皆同じこと言います。「自分は日本人だけど、留学したから日本語も英語もできる。だから自分はダブルです」と言うのです。ところが、英語をしゃべらせてみると、アメリカ人に比べたらものすごく英語は下手です。では日本語はどうかというと、彼らは「漢字もろくに書けない」「就職の面接なのに、ちゃんとした敬語を話すことができない」「日本の歴史や文化をよく知らない」「現代史、昭和史の質問をしても、リットン調査団という単語すら知らない」「松尾芭蕉や源氏物語も読んだことがない」。これで良いのでしょうか?日本から留学してきた人達は「私は日本人ですが、英語を勉強したからダブルです」と言うけれど、そうじゃない。彼らは「ダブル」ではなく「ハーフ」です。「両方とも中途半端」、というのが実態だと思います。

それくらい英語の壁というのは最後まで厚いです。簡単なものではありません。それでもゼロよりはいい(!)んです。多くの日本人は「ハーフ」にすらなれませんから。今、ますます日本の若者が海外に出ないと言われていますよね。そうすると、志を持って海外に挑戦する人にとっては、ますます有利な世の中になってくると思います。競争者が少ないからです。だから、ちょっとの期間、例えば3カ月でもいいから留学した方がいいです。欲を言えば30歳前に2年間ぐらい留学した経験を持つことができれば、その後の人生が大きく違うでしょうね。そしてそういう人は、日本で活躍したほうがいいですよ。だって英語圏に住んでいる限り、英語ができることは別に有利なことじゃないですから。

しかし、あくまでも根本的な問題は、人間としてのレベルの高さ、日本人としてのレベルの高さです。人生を成功させるような立派な人間になりたかったら、まず根本の人間としての能力、日本人としての能力を磨くこと。それが大事です。英語だけじゃダメですよ。最後のステップ6には、もう一度そのことを書いておきました。