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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社せおん 代表取締役  越純一郎氏

先輩メッセージ / Message21:株式会社せおん 代表取締役 越純一郎氏

では何が有利な選択肢なのでしょうか?

まず、医者の例え話を出したいと思います。医者という職業には、どんな能力がなくてはいけないか。実は二つあるんです。医者は、人の命に関わる職業ですから、変な人格の人が医者になるのは望ましくありません。実際にドイツの医師の国家試験には、人格の試験があって、変な人格の持ち主は医者にはなれないそうです。では人格がマトモであれば、ヤブ医者でもいいのでしょうか? そうはいかないですよね。やはり人格と能力の両方が必要なんです。英語では、よく「マインドセット」「スキルセット」と言いますが、「マインドセット=人格」「スキルセット=能力」と言い換えてもいいかもしれませんね。

有利な人生を築くにはどうすればいいか、ということについても同じように考えればいいんです。マインドセットとスキルセットを磨く。つまり、「人格と能力の両方を磨く」のです。ヘッドハンターも、ここを重視します。ヘッドハンターは、企業から「こういう人材を採用したい」というリクエストを受けます。そのリクエストのシートには、「マインドセット」「スキルセット」の二つがしっかり書かれてあります。特に外資系の会社の人材採用の場合には、マインドセットの中に「integrity」という単語がよく書かれています。「integrity」とは、「高潔な人格」という意味ですね。外資系の企業でも、人格が重視されているんです。「能力さえあればいい。英語ができればいい。」などという考えは大きな勘違いです。

これは皆さんが採用する側に立ったら、自ずとわかることですね。例えば、経理部の人を雇う時に、「数字に詳しければ、どんな変な人格でもいい」と考えますか? 誰もそうは考えないでしょう。「能力があるけど、人柄もいい」、皆それを望んでいるんです。同じように、誰かを採用しようという時に、「組織にシガミツイテいるしか生きる力が無い人」をわざわざ雇いたいなどと考える企業なんて無いんです。あくまでも、人格と能力の両面を見るのです。

だから、有利な人生を自分で作りあげたいと思うなら、その二面から考える必要があります。ステップ1にある「自分で自分の運命をコントロールできる能力」は、スキルセットに関連します。対して「志」とは、マインドセットです。能力と志。この二つは、世の中のすべての企業から、どんな場合でも望まれるんです。これは医者だけでなく、弁護士でも、ビジネスマンでも教員でも誰でも同じことです。日本人でもアメリカ人でも同じです。世の中は、必ずあなたをその二面から見る。ですから、その両面から自分を磨いてください。

どういう選択が有利で、どういう選択が不利なのかを、もう少し具体的に教えていただけますか?

はい。それではステップ2を見てください。

最も不利なことは、二つあります。一つは、キツイ言い方ですが、「サラリーマンのなれの果て」になることです。それは、組織にしがみついている以外に自分の人生を築き上げる方法がないということです。「人生の墓場」がそこにあると考えておくほうが、安全だと思います。わざわざそういうコースを選んでしまうことは、絶対にやめた方がいい。

「サラリーマンのなれの果てになっても、食べていければいい」と言う人がいるかもしれません。しかしですね、今の時代は、会社だってたくさん潰れますよ。たとえば、企業の格付けには、AAAからCまでがあって、そのうちBBBまでが「インベストメイト・グレード(投資適格)」です。つまり、BBBというのは、「まあまあの会社」です。しかしこの「まあまあの会社」でさえ、世の中には少ないんです。上場会社にも多くはありません。その下のBBの会社ですと、5年倒産確率が20%です。つまりBBの会社というのは、5年以内に20%以上が倒産しているということです。倒産しなくても、衰退し、ボロボロ、ヨタヨタになる企業は、ものすごくたくさんあります。「昔は花形産業だったのに、今は構造不況業種になってしまった。給料も少ないし・・・」という企業は、日本にもたくさん有ります。そうなったときにも、「会社にしがみついているしかない」などというのは、実にミジメな人生だと思いませんか。自動車産業だって、ある人に言わせれば、「現在がピークで、今後は衰退していく」そうです。ソフトバンクでも楽天でも、立派な企業ですが、彼らが将来、経営に失敗する可能性は、誰も否定できません。そうなっても、「いつだって転職できる」「どこでだって生きていける」人こそ、真の安定した人生を実現できるのです。

考えて下さい。私が所属していた日本興業銀行も、現在はありません。私が大学を卒業した1978年には、「都市銀行が13行、信託銀行が7行、長信銀が3行」、つまり大手銀行が23もありました。しかし、現在は、その半分もありません。昔は、大手証券会社の山一証券が倒産するなんて、誰も想像できませんでした。でも、倒産しました。2008年には、33社の上場企業が倒産して、過去最多となりました。倒産しなくても、終身雇用はだんだん無くなります。公務員でも、大学教員でも、同じです。「大学や役所だけは、永遠に終身雇用が守られる」なんて、誰が保証できると言うんでしょう。つまり、従来型のサラリーマンはリスクが大きいんです。

サラリーマンになってしまうと、自分で自分の運命をコントロールすることができません。ですから就職する時には「35歳までには転職する」「30歳までにはこういう資格をとる」「何歳までには留学する」といったきちんとしたプランをもって就職するといいですね。会社に「就社」するのではなく、本当の意味の「就職」を実現していく人生プランが大切です。

私の身の回りにいる先輩や同世代で人生を成功させているという人には、やはり社会に出てからの人生プランをきちんと持っていらっしゃったようですね。例えば、ある外資系企業のトップなどを経験された有名な方がいます。私より10歳くらい年長ですから、彼が就職したときは、日本中が終身雇用だったという時代でした。しかし、彼は最初から「35歳までに転職する」と決めていたそうです。実際に転職したのは38歳だったので、「僕は3年遅れました」と笑っていましたが、長い人生の間の3年や5年の遅れなんて何でもないことですよ。その後、彼の人生は大成功しました。ああいう人生を送ることができれば幸せだ。きっと誰もが言うでしょうね。要するに、ボンヤリ生きているのではダメなんです。

反対に「サラリーマンのなれの果てでもいい」と言う人は、最初から「負け犬コース」を選んでいるわけです。そして、その結果、負け犬にすらなれないという人が多いのです。サラリーマンになって一生過ごしたいなどという、リスクの大きい考えは、一刻も早く変えたほうが良いでしょう。というよりも、今や、考えても無駄、つまり「一生、そこで過ごす」ことを自分が希望しても、現実的には、そうはいかないという時代になってしまっています。

公務員や大学教員なら大丈夫、と考える人も多そうですが。

公務員や大学だけは終身雇用制が永遠に変化しないはずだなんて、誰が断言できますか?世の中にそんなこと断定している人が一人でもいるでしょうか? 逆に、公務員も終身雇用制をなくすべきだという意見を言う人なら、世の中にはたくさんいます。「30年たっても役所と大学だけは終身雇用制が続く」などという考えは馬鹿げています。東大、京大についで、日本で3番目に難しい大学になっている国際教養大学では、終身雇用の教員は一人もいません。私は将来ビジネス・スクールを作ろうと思っていますが、教員は3年雇用とします。そして、途中でも駄目な人は代えていきます。

「まさかそんなことありえない」と皆さんが思っていることが、10年後、20年後には現実になっている。そういう前提で人生設計することが、非常にいいやり方、賢いやり方です。 例えば、「終身雇用が無い世の中になっても生きていける」という自分を確立できれば、終身雇用が有っても無くても生きていけるんです。いつ終身雇用が蒸発して消えてしまっても困らないんです。そういう人生設計をするべきですね。「終身雇用を離れたら人生沈没」というコースは、是非、避けて下さい。

有利な人生選択の具体例について教えてください。

第1に、英語パソコンですね。パソコンと言うのは、コンピューター・リテラシーのことです。英語ができて、コンピューターができれば、これからの50年間で非常に有利になると思います。

そして、先程も言った専門性が重要です。今まで日本で言われていた「就職」と言うのは、「就社」のことです。職に就くのではなく、会社に入ることを「就職」と言っています。そうではなく、「真の就職」。これが重要です。たとえば専門性を持って、会計の専門職になる。こういうことが本当の意味での就職だと思います。会計の専門家は、企業の経理部でも働けるし、会計事務所に転職することもできるかもしれない。あるいは法律を専門にする人なら、企業の法務部で働くこともできるし、資格を取って司法書士事務所に就職することができるかもしれない。もしかしたら、独立して自分の司法書士事務所を経営できるかもしれません。これが本当の就職です。組織にしがみつくために、どこかの会社に入ること。それは就職ではありません。しがみつきたいと思っても、相手がそれを拒否するかもしれないし、その会社自身がなくなっちゃうかもしれない。それは単なる「就社」であって、「就職」ではありません。ステップ3には、そのことを書いておきました。

「英語」「PC」「専門性」。これらを持つ人間が有利です。有利に人生を送れます。この傾向は、今後5年ほど経ったらもっともっと強まると思います。10年経ったらさらに強まると思います。その強まり方というのは、時が経つにつれて、ますます顕著になると思います。そして何の専門性もなくて、英語、PCも得意じゃないという人材が、組織の中で一番必要とされないという傾向も、5年たてば今よりも強まる。10年たてばさらに強まるでしょう。

先生がおっしゃる専門性の中には、資格職だけでなく、例えば営業のスペシャリストになる、ということなども含まれるのでしょうか?

そうです。専門性というのは、資格のことだけではありません。アメリカの会社を見ればわかります。例えばヒューマンリソース、つまり人事の専門家というのは、銀行に勤めても、電機メーカーに転職しても、人事部で勤務しているわけなんです。そうした方々は、「どの大学ではどんな教授がどんな教科書を使っていて、その卒業生たちはどんなところに就職している」というような情報をちゃんと把握しています。それが彼らの専門性ということですね。そのほかにも、営業、企画、コンサルティング、メンタル・ヘルス、不動産、M&Aなど、様々な専門分野があります。

著書の紹介
「事業再生要諦 志と経営力―日本再生の十年に向けて―」商事法務

企業再生ビジネスの問題点や課題だけでなく、これからの経営者やビジネスマン、日本人として必要なものに関して簡潔明瞭に論じられた一冊。「事業再生要諦」と銘打たれていますが、この書籍で主に論じられているのは、「志」と「経営力」の重要性。単なるきれいごとではなく、経営の現場の客観的な事実や歴史的な観点からも、その重要性が語られています。経営のプロだけでなく、これから社会に出ようとする学生も必読です。