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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社せおん 代表取締役  越純一郎氏

先輩メッセージ / Message21:株式会社せおん 代表取締役 越純一郎氏

今回の先輩メッセージには、経済小説「ハゲタカ」のモデルにもなった事業再生の実務家・越純一郎氏が登場!興銀を退職後、数々の企業の再建に携わってきた越氏に、これからのビジネスマンに必要な資質、留学することの意義についてたっぷりお話を伺いました。厳しくも熱いメッセージをお届けします!

PROFILE

越純一郎(こし じゅんいちろう)

1978年東京大学法学部卒業、日本興業銀行入行。12年にわたるニューヨーク勤務を含め、22年間に日米でM&A、証券化などに従事。2000年、興銀を退職しシグマ/千秋薬品グループの再建に着手、約3年で再建を完了。その後、ベンチャーキャピタル、電力会社、各社の顧問・役員を歴任する一方で、経営者・実務家の育成に注力。事業再生実務家協会理事、東洋大学経営学部客員教授。講演・著作多数。

越先生は「ハゲタカ」の登場人物・芝野健夫のモデルとしても知られていますが、まず簡単なプロフィールを教えていただけますか?

私の名前でグーグル検索しますと、「ハゲタカのモデルだ」と出てきますが、私だけがモデルではなく、むしろ私は脇役です。事情は、以下の通りです。私は1978年に日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)に入行し、22年間勤務しましたあと、2000年に銀行を辞め、以降7年にわたって秋田県で企業グループの再生に従事しました。ちょうどその間の2003年に産業再生機構ができ、企業の再建活動が世間で注目されるようになったので、『週刊ダイヤモンド』に私に関する特集記事が出たんです。それを見た『ハゲタカ』の作者の山田さん(ペンネームは真山仁)が取材に来られたんです。彼には、私の友人達を紹介してインタビューしてもらい、それらを含めて、あの小説はできたわけです。

私も含めて、誰も自ら「自分がモデルだ」とは名乗っていないのですが、私の場合には「週刊ダイヤモンド」の記事が小説に引用されているものですから、世間に知られてしまったんでしょう。ドラマ版で柴田恭兵が演じた芝野健夫が、銀行を辞め、地方の会社の再建に赴くというエピソードは、私の秋田県での活動をもとにして書いたのだと思われますが、大部分は私ではない方がモデルになっています。

さて、どのような人生を送って来たか、簡単にお話しましょう。私は田舎で育ったので、良い教育を受けたとは言えません。小学校、中学校の頃は、自分の人生がどうなるのか全然わからなかったし、見込みもありませんでした。ただただ、努力、努力、ひたすら 根性の勝負の連続で生きてきました。中学の頃、よく自分に言い聞かせていました、「やせても枯れても、男一匹、自分一人くらい生きていけるものだ」と。だから、低空飛行ではあっても、「自分は、やるべきことをやり続けている」という自意識がいつもありました。一番良い高校には行けなかったし、その高校に入ったら、英語は平均点すらとれない状態でした。大学受験は失敗。予備校に入ったら、成績順で、下から2番目のクラス。とにかく、知力、体力、資金力など、どれも恵まれてはいませんでしたね。特に、小学校から大学まで、いつも学校が遠くて、通学に時間がかかるのは大変でした。

日本興業銀行に入った段階では、学校の授業とNHKで学んだ英語以外には、英語の訓練を受けたことも留学をしたこともありませんでした。しかし、必ず海外に打って出て、そこで活躍するんだということは、3、4歳の頃からずっと思っていましたよ。私達の世代には、そういう考えを持っている子供たちがたくさんいたんです。

ただ、残念ながら、何回も留学の試験を受けたのに、1回も受からなかったんです。そのまま30歳になろうとする頃、ニューヨーク(NY)への赴任が決まりました。ですから、ゼロから海外生活を経験したということですね。それで2度のNY勤務、合計12年のNY生活を送ることになりました。私自身は、英語で苦労して時間もかかりましたが、子供たち3人はアメリカで育ったので自然に英語を覚えることができました。結果として、自分の家庭は非常に得したと思っていますね。そして3人の子供たちも、自分は得したと思ってくれています。

日本人としてのアイデンティティは失われることはありませんでしたか?

全ての根本は、自分のナショナリティです。「国際人」などというものは、存在しません。実際に存在するのは、日本人であり、アメリカ人であり、あるいはタイ人、スウェーデン人などです。「国際感覚」なんて単語がありますが、あれは英語には翻訳できない言葉。「国際感覚」などという実態はありません。あくまでも、自国の言語、文化が根本です。

だから、立派な国際人材になりたければ、まず「立派な人間」になること、レベルの高い人間になること、レベルの高い日本人になること。それ以外にはありません。日本でもアメリカでも、国際人なんてものは存在しません。まず日本人としての根っこがあって、その上で英語が使えることが重要なんです。だいたい、どこの国籍だかわからないような人間は、国際社会では尊敬されませんよ。相手にされません。「祖国を尊び、愛する人間」、「きちんとした自分の考えを持ち、判断力、行動力、意見を表明できる人間」が国際社会でも尊敬される。当然のことですね。

今の日本には閉塞感が漂い、どこか人生をあきらめてしまっている若者も多いと思います。彼らに対して、何かアドバイスをいただけますか?

最初に申し上げたいのは、わざわざ自分が不利になるような人生の選択はするべきでないということです。まずステップ1をご覧ください。

誰だってわざわざ自分に不利な選択をしようと思って行動しているわけではありません。しかし、気がつかないうちに、一番不利なことをやっているのです。つまり、何が不利で何が有利なのかという判断を誤ってしまう人が多いのです。かわいそうですね。

もっとも不利なのは、「専門性がない」ということです。ハローワークに行けば、いっぺんに分かります。「どこかに転職したい、再就職したい!」と言っても、専門性がない人材はお呼びじゃないんです。「何でもできて何にもできないジェネラリスト」という言い方がありますが、そういうタイプになってしまうと転職も再就職も大変です。「僕の特徴は、誰とでも話ができることです」と言っていた人がいますが、そんな人材は必要とされません。企業が欲しいのは、専門性を持った人材です。専門性がないと出世も転職も厳しいというのが現実です。とにかく、世の中が求めているのは、第一に専門性。だから、専門性がないのは、人生の選択で一番不利。このことは、私が大声で言わなくとも、すでに客観的な現実になっていますね。今後、ますます、そうなって行くでしょうね。

もう一つの、人生の中で大きな不利な選択肢は、「組織にしがみついていなければ、生きていけない人間になってしまうこと」です。ある経営コンサルティング会社で新卒採用をやっている人が言っていました。応募してくる学生の多くが「安定した職業につきたい」と言うのだそうです。しかし「何の専門性もなく、組織にしがみついている以外に生きる道がない」、そんな人生を選択してしまったら、いったんリストラされたおしまいです。リストラされなくたって、会社が潰れたら、転職もできずに人生沈没です。今の時代は、会社なんてよく潰れますからね。彼は、「学生というのは、安定したい、安定したいと言いながら、実際には最も不安定な人生航路を選択している。」「組織にシガミツイて安定を得ようなんて、良くもまあ、そんな不安定な選択をするもんですね。愚かな判断をしてしまう学生って、たくさんいるんだなと思いました。」と言っていました。「どこでだって生きていける」というだけの専門性を持つことこそ、真の安定した人生です。

世の中は変わっていくのです。自分が嫌だと思っても、変わってしまうんです。終身雇用は、日本でも後退してきましたが、今後、ますますそうなります。あと20年くらいすると、完全な終身雇用制の会社など、日本には無くなってしまうでしょうね。そうやって世の中が変わってしまった時に、「最初に入った会社にしがみつくしか生きる道がない」なんて、もっとも不利な人生です。 もちろん学生たちは、わざわざ自分で不利になりたいとは思っていないでしょう。しかし、まだ世の中のことをわかっていないから、一番不利な選択をしてしまっている。これが実態だろうと思います。

10年後には結果もでます。安定していそうな会社にしがみついて、一生大丈夫だろうと思った人でも、10年後には予想外のことになってしまう人は多いでしょう。私の周りにも、安定していると言われた会社に就職したのに、1年でリストラに遭った人が実際にいます。厳しい情勢でしたが、助けようとはしました。しかし、「本人がそういう不安定な人生を選択したのだから、本人の責任だ」と言うだけでは、先輩として役割を果たしたことになりません。だから、皆さんに知っていただきたい。わざわざ自分が不利になる選択をしないでもらいたい。これが今日の最初のメッセージです。