VOICE

海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>国際緊急援助隊(JDR) 大友 仁氏

先輩メッセージ / Message15:国際緊急援助隊(JDR), 大友 仁氏

業務調整員に必要な資質はありますか?

そうですね。何が専門というわけではないけれど、業務調整員はいろんなことを覚えて行かなくてはならない仕事です。たとえば、テントの組み方やいろいろな機材の使い方など、いろんなことを覚えていかなくてはいけません。そういったことに対して常に興味を持って、学習する能力と意欲が必要なのではないでしょうか。そして学習することを面白く感じることができるというのが大切ですね。

では大友さん自身の性格の中で、自分のこういう部分が業務調整員という職に向いているな、と感じることはありますか?

そういう意味で言えば、人が好きだということでしょうね。先程も言いましたが、チームの人数はだいたい20~60人。初めてあった人ばかりです。そういった人たちと、いきなりコミュニケーションをとるには、やはり技術だけでは追いつかない。人が好きじゃないとコミュニケーションも難しいんです。

私のちょっと前の同僚で素晴らしいヤツがいるのですが、僕はそいつより何をやってもうまできると思っているのですが、それなのに、そいつはとにかく人に好かれるんですよね。彼は気に入らないことがあると、現地の人でもガンガン怒る。調整員は、現地で人を怒るなんて絶対にやってはいけないことだと教えられているんですよ? それなのに彼はバンバン怒る。でも切羽詰まった状況で怒られたからと言って、怒られた人もプイって帰るわけにはいきません。そうして、なんとか頑張ろうとする。そのうち、ちょっと人が良さそうな僕のところにやってきて「あの人、ちょっと怖いから何とかして」と悩みを相談しにくる。僕が悩み聞き役、そいつは怒り役ですね。でも最後に僕が給金の清算なんかをしている横で、その怒られた人が同僚の手を握って「あなたと仕事ができて本当に良かった」なんて言っている(笑)。

おいしいところだけ持って行くんですね(笑)

そうなんですよ! 言葉も下手だし、表現力も豊かじゃないけど、人に好かれる人っているんですよ。でもなぜ彼がそんなに好かれるかと言えば、やはり彼自身が人が好きなんですよね。それは調整員にとって、大事な資質のひとつだと思います。

被災地でのコミュニケーションは、ダイレクトでストレートな命令のほうがスピード感があると思います。でもそういった命令は、メンタル的な部分ではマイナスに働くこともある。そういったバランスをとるのは大変ではありませんか?

それは確かにありますね。でもそういった場合は、環境を変えるだけでうまくできることもありますから。たとえば、この間、インドネシアに派遣されたときには、車で移動だったんです。ドライバーが車を運転してくれたのですが、医療チームが治療している間は、ドライバーは何もすることがないわけです。一応私達は「車のところで待っていてください!」と言いつけているけれど、彼らはフラフラっと屋台に出かけてお茶を飲んでいたりするわけです。そうすると我々は、ドライバーを探すのに20分くらい無駄な時間を過ごすことになるんですよね。ところが、診療のテントの横にドライバー用テントを作って「ここにいてください」と言えば、彼らはそこに普通にいてくれる。たったそれだけのことで、仕事の効率があがるんですよね。

結局、能力のない人に「想像でやってほしい」って言ってもそれは無理な話なんですよ。逆にいちいち指示されるのでは物足りないという人もいるから、そこはコミュニケーションをとって能力を見極める必要もありますけどね。

やはりそういった工夫も必要なんですね。

機能を上げるための工夫ですよね。緊急援助隊というのは、共同体組織ではなくて機能体組織なわけで、きちっと目意的や内容を指示しないと機能は果たせないわけです。でもそれではどうしてもストレスを抱えてしまう人もいる。機能体組織ではありながらも、緩やかな共同体組織的な相互扶助も必要なんです。それは言葉で「ありがとう」と添えるというような、簡単なことでもいい。それだけで仕事の効率は必ず上がります。機能体組織としてニーズを果たすためには系統だって仕事をしないといけないけれど、ある程度のルーズさがないと人間はやはりダメになる。そしてそういったストレスの状況を見るのも、我々調整員の仕事なんです。

隊員たちにストレスがたまっているな、と思ったら、どんなことをするのですか?

単純なことですよ。たとえば冷たいコーラを1本出すだけでもいい。冷たいコーラを飲むなんて日本では当たり前ですけど、被災地では氷を探すのだって時間がかかるし、みんな「ありがとうございます!」って本当に喜んでくれます。

それからみんなやはり一生懸命やろうという人たちの集団ですから、放っておくと頑張りすぎてバタバタ倒れちゃうんですよね。医療チームだと、ドクターストップではなくて、ナースストップなんて言葉もあるくらい。要するに、働きすぎのドクターをナースがとめるわけですね。だから僕らも働きすぎのドクターがいたら、ナースに「ちょっとドクターに休むように言ってよ」と話をする。ドクターは僕らの言うことは聞かないけど、ナースには逆らえないんですよ(笑)

では、大友さん自身が仕事でストレスを感じるときはありますか?

ストレスというか、無力感を感じてしまうことはありますよね。私は2000年から国際緊急援助隊の業務調整員として働いていますが、2004年に結婚をして子供が生まれたんですよね。それまでの緊急援助活動がまったく平気だったというわけではないのですが、子供が生まれてからはいっそう心が痛むようになって。やはりどの現場に行っても、災害弱者は、子供と老人、女性なんですよね。

2008年にはミャンマーのサイクロン被害のために現場に行ったのですが、そこは災害だからじゃなくて、普段から医療が行き届いていないと言う場所でした。結核も多いし、強度の脱水症状の子もいるし、どこまでもやってもきりがない。その中で、生後5、6カ月の子供がいて、もう顔がどす黒くてね。点滴して治療はするけれど、その場では限界がある。でも集中治療室に行けば、必ず助かる症状なんです。しかしながら病院にはヘリじゃないと行けないし、車では10時間以上かかるし、誰も車を持っていないし、入院させることはできない。それでお母さんが毎日毎日診療に連れて来ていたのですが、4日目にとうとう亡くなってしまったんです。それなのに我々が帰るときには、お母さんがわざわざ来てくれて。ひとりひとりに手を合わせて「ありがとうございました」と言ってくるんですよ。子供を亡くしているお母さんが、我々に対して「ありがとう」と言う。その気持ちはとても嬉しいけど、結局救ってやれなかったわけですから、もう耐えられませんよね。涙がこぼれないように、上しか見られませんでした。