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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>株式会社マザーハウス 山口絵理子代表

先輩メッセージ / Message04:株式会社マザーハウス 山口絵理子社長

最初の滞在は短期だったということですが、その後、バングラデシュの大学院に進まれたんですよね。「怖い」と思ったような国なのに、なぜ現地の学校に行くことにしたんですか?

ワシントンで途上国への援助の仕事をしていたときから、「このお金はどこに行くんだろう」という疑問がずっとあったんです。バングラデシュで、それを突き止めたいと思ったんですよね。だから本当は大学院に行かなくても良かったんですが、観光ビザでは1ヶ月ぐらいしか滞在できないんですよ。現場を見るのにはやっぱり1~2年は必要ですし、そのためには大学院に籍を置くのがいいと思ったんです。

怖いと感じたのに、やっていけると?

怖いというのもあったけど、知りたいという気持ちのほうが大きかったんですよ。

好奇心、探究心が強いんですね。

ただ、器用じゃないだけです。学生時代から、将来のことや生きる意味を探していて。その過程で違和感を感じたことを、うまく消化できないまま就職するというのが自分的には納得できなかっただけですよ。

ご両親は、若い娘が治安も良くない発展途上国へ留学することに対して、反対しなかったのでしょうか?

反対はもちろんありました。でも説得はしなかった(笑)。有無を言わせず、です。親も自分の稼いだお金で行くのであれば、と言ってくれたので、一生懸命アルバイトをしてお金を貯めましたよ。まあ、向こうは学費も安いので、50万円くらいの貯金で行くことができました。

山口さんの著書に「路上で少年が車にひかれ、救急車を呼ぶのにも賄賂が必要だった」とあって、それがとても衝撃的だったのですが。

そうですね。バングラデシュは、どこに行っても賄賂が当たり前。救急車の賄賂が高いんですよ。ケガをしても救急車は使わない方がいいくらい。

そんな状況で脱力感に襲われることは?

その繰り返しです。

繰り返す、ということは、またやる気が戻ってくるわけですよね。そのモチベーションになったのは一体何だったんでしょうか? 「バングラデシュが好きだから」という意識を作るのには、まだまだ時間かかると思うんですが……。

いや、バングラデシュはいろんな事件とか、いろんな賄賂が蔓延していて。本当に正義が通らない国だと実感した中で、どんどん「ふざけんなよ!」っていう気持ちのほうが勝ってきちゃったんです。やっぱり私、フェアじゃないことは許せないんですよ。「助けたい」という優しい気持ちなんかじゃ全然ないし、私は自分を押し殺して施しができるような善良な人間でも何でもないです。ただ、悪いことは悪いと思うし、頑張ったら利益があるのは当然でしょう? でもそれが向こうでは全然通じなくて、「それはおかしい!」と強く感じたんです。そして理不尽なことを正すためには、ビジネスの力が必要だと思ったんですよね。

政治ではなく、経済の自立が必要だと?

はい。例えば、いくら一生懸命勉強しても、バングラデシュでは一度ストライキが起きちゃうと全部パー。そしていくら一生懸命お米を育てても、一度洪水が来たら全部パー。結局のところ、競争をして、きちんと経済的に評価されるということが現地の人にとっては重要なんですよ。

バングラデシュでは大学院に通いながら、三井物産の現地法人でインターンとして働いていたんですが、やっぱりそうした商取引の場では、フェアじゃないゲームもあります。どうしたって途上国は使われる立場。先進国の大企業が中国よりも安い物を求めにバングラデシュに来て、労働力を使って。そして、ものすごい数の安い商品がどんんどん輸出されて。それを見ながら、ああ、こういう風にして、みんなお金を稼いでるんだって思ったんです。そしてきっと、10年後もそのままなんだろうなって。

私自身、卒業後に三井物産に入ることを考えなかったわけじゃないんです。でも、それはむしろ構造を固定化するひとつの要素にしかならないんですよね。果たして私はどうすればいいんだろうって、ずっと悩んでいて……。

それで起業しようと思った?

はい。結局、今のビジネスにたどり着いたのは、全部の選択肢に違和感を感じたからなんですよね。実は、こういう社会貢献に関心がある人にとって、今の社会はすごく選択肢が狭いんですよ。ボランティアか国際機関か。それくらいしかないじゃないですか。でもやっぱり私は、オルタナティブなものを自分なりに作らなきゃいけないと思ったんです。

そんなとき、三井物産の仕事で出かけた展示会で出会ったのがジュート。このジュートで、かわいいバッグが作れないだろうか。そう思いついたんですよね。「安かろう、悪かろう」じゃなくて、「あ、これいいじゃん!」と思えるようなバッグをバングラデシュで作って売ることができれば、イメージの逆転になるんじゃないか。そしてイメージの転換が起きたときには、初めて社会に変化を起こせるんじゃないか。そんな風に考えたんですよ。

もちろん、「バングラデシュ製」というイメージを壊すためにやらなくてはいけないことはたくさんあります。でも、先進国の女性がバングラデシュのバッグを持っているのが普通になったときには、安いものを求めにやってくる企業ばかりじゃなくなるかもしれないし。バングラディシュ=洪水じゃなくなるかもしれない。やっぱり私は、こういうことに一生を使いたい!と思ったんです。

思い入れのある品

海外にも持って行ってるマザーハウスの名刺入れ。こちらのバージョンは、最近使い始めたものなんですが、名刺入れはいろいろと使っているので、もう何代目かわからないくらいです。とにかく逢う人が多いので、1週間で3cmくらいの厚みになるんですよ。講演会や取材でもらったり、お店でお客さんから名刺を渡されることも。私自身の名刺も、国内用と海外用の2パターンが常に入っているので、余計に分厚いんです。閉まらないので、留め具が欲しいですね(笑)