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海外生活サプリHOMEMESSAGE:先輩からのメッセージ>ザ・リッツ・カールトン日本支社 高野登社長

先輩メッセージ / Message02:Message02:ザ・リッツ・カールトン日本支社 高野登社長

素敵な出会いですね。

はい。ニューヨークで生活するための足場固めは、そのバーテンダー…ボブのおかげでできたようなものですね。後で知ったんですけど、彼、銀行の元役員だったらしいんですよ。すでにリタイアして「残りの人生、おれは好きな酒を作って、好きな友達が集まるような場所を作って余生を過ごしたい」と言って、バーをやっていたらしいんです。だから、彼はものすごいインテリでね。私が一生懸命やっているということも、全部わかってくれていたんです。そして入り方が間違っているということもね。

そのうえで、正しい入り方を教えてくれたんです。彼が紹介してくれた人も、みんな「いい人を紹介してくれたなぁ」って思うような人ばかりでね。でもそれに気が付いたのは、ずいぶん後のことでしたよ。

ああいう人を見ると、アメリカ人は本質的にボランティア精神を持っていると思いますね。人のために何かするということが、押し付けがましくなく、実にスマートにできるんです。

「してあげた恩は水に流せ、受けた恩は石に刻め」という言葉が日本にもありますが、あそこで知り合ったアメリカ人たちも、そういった感性に近いものを持っていたんだと思います。そこで私がちゃんとその恩を石に刻んでおけばよかったんですけど、当時はまだまだ若くて、そういうものだと受け止めてしまったんですよね。でもだんだん年を取って、自分が周りに何かしてあげる順番になったときに「ああ、あんなことをしてくれていたんだな」と、やっと思い至ったわけなんですよ。

それに気づいたときには、「恩を返さないといけないなぁ」とつくづく思いましたよ。本人に返すのではなく「他の人にその恩を送らないといけない」とね。

バーで生活の足場を固める一方、ホテルでは最初にどんなお仕事をされていたんですか?

要は、何でも屋ですね。ホテルキタノは80室あったアパートメントをホテルに作り替えたという代物だったのですが、まだできあがっていない部屋もあったんです。だからインテリアを運んだり、レンガを敷いたり。それから人手が足りないからってキッチンでお皿を洗ったり、受付をしたり……。朝の5時から夜中の12時まで、ふらふらになりながら働きました。でも20代は、頭で稼げないですから、体で稼ぐしかないんですよね。その生活の何がすごいって、夜12時に仕事が終わったら、それからジャズを聴きに行っていたんですよ。よくあの生活で、体が持ったと思います。

そのころ目標にしていたことはありますか?

もともと2年で日本に戻るということは決まっていたんです。ただあと半年で2年経つというときに、ニューヨークのプラザホテルの宴会に行く機会がありまして。そこでカルチャーショックを受けたんです。「こっちがホテルだ」ってね(笑)。プラザホテルで働きたいと心底思いました。目標ができたとするなら、そこですね。

ただ2年働いた後も、ニューヨークには残られたんですよね?

はい。本社の北野建設は、日本で海外ホテル事業部を作ったから、そこで仕事をしてくれと言ってくれたんです。でも一回日本に戻ってしまうと、もうアメリカには戻れないし……。そこで日本には、戻らない決心をしたんです。社長には電話をして、そのうち恩返しできればしたい、と話をしましてね。親には2年で帰ると言っていたのが、気がついたら20年ですよ(笑)

海外生活で、何か苦労したことはありましたか?

苦労はないです。チャレンジはいっぱいありましたけど。苦労というのは「苦しい」という文字を使いますよね。なぜ苦しいかというと、苦しみの原因がわからないからなんです。でも私は、自分のしんどい状況の理由がすべてわかっていました。まずお金がない、グリーンカードがない、金を稼ぐ知識もない。じゃあ、どうするか。これはもう、体で稼ぐしかないじゃないですか。理由がわかっているなら、行くしかないんです。グリーンカードを取得して、アメリカの企業に入って、自分をブラッシュアップして、必要な知識と人脈を作って……。どうやったらできるかなって、むしろワクワクしていましたよ。

先が見えないのは苦しいけれど、目標があれば全然苦しくはないんです。雪国育ちですからね、意外とじっとしているのが平気なんですよ。じっと耐えてチャンスを待つ、これは雪国で培われたひとつの感性ですね。

ではニューヨークで生活をして、一番日本との違いを感じたのはどういった点ですか?

住んでいるときに感じる生活感ですね。日本は、安らぎのある村社会なんです。基本的に、みんなが見ていてくれて、何かあった時にはほっとかない。ただし、自由はありません。とんがっている人には住みづらい社会ですよね。アメリカ社会は逆なんです。いわゆる日本的な安らぎはないけれど、自由にあふれている。どちらで呼吸するのが生きやすいかは、それは個人個人の問題ですが。

アメリカ社会は、大人の個人主義ということでしょうか?

日本には個人主義はほとんどないですよね。ちょっとでも出ている釘は打たれてならされる。そこはやっぱり全体主義なんですよ。アメリカは、全体と一緒なら、その人の評価はゼロ。飛び出た人だけが評価されるんですよね。

ザ・リッツ・カールトン東京

2007年3月に開業。「東京ミッドタウン」のグランドフロアと2階、45~53階に位置する、世界屈指のラグジュアリーホテル。
ロビーやレストラン、客室の窓からは、地上200mからの絶景を一望。絶好のロケーションと最高級のおもてなしが、非日常へといざなってくれます。東京の真ん中で、ホスピタリティの真髄を体感してみてください。